対局圏(迷人戦)
□砂里町暁稲荷余話 その三
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雨降りの夜は道を見分けるのも難しいくらいで、腹の立つのに任せて出て来てしまった神主さんは結局、手近な明かりの見える神社に足を向けていました。
濡れて滑る玉砂利がやけにまとわりつくような気分になり、ますますウンザリとしながら屋根の下に入ります。
賽銭箱を置く石台の脇に付いた木屑を払い、内裏へと上がる段に腰掛けると、深く深く息を吐いた神主さんは後にしてきた方を見やりました。
真っ暗闇の先に見えるのはぼんやりした明かりが幾つか、パチパチと点いては消えを繰り返しているのは街灯でしょうか。
それ程多くはない近所の家々は、時間としてはそろそろ就寝の頃だと言うのにも拘わらず何とも宵っ張りなものだと思いました。
ああ、早く帰らなくてはまた家を荒らされるなと考えては見たものの、据えてしまった腰を上げるのも億劫でそのまましばらく座っていると、鳥居の向こうからザリザリと砂利を踏む音が聞こえてきます。
見れば先程の街灯が列を作って並び、こちらへと向かってくるのではありませんか。
「ほらいた、やれいた」
囃すように囁き合いながら近付く薄黄色い明かりの正体は、手に手に提灯を提げた狐達でした。
皆器用に後ろ足で立って歩き、手拭いを頭に巻いていたり羽織を着ているものまでいます。
不思議と雨に全く濡れていない様子の狐の一団は、言葉の出ない神主さんの前までやってきます。
「ほらほらここだ、おやまぁなんと。坊やの匂いがぷんぷんするよ」
そう言いながら、いかにも年嵩といった風貌の狐が前へと進み出ました。
その額には仔狐と同じような黒丸が銀毛から色を変えて存在しています。
「もしそこのお若いの、うちの夜叉孫がとんだ迷惑を掛けてしまったようじゃな。修行の足らん未熟者を、この爺に免じて許してはくれまいか」