裏かどうかは微妙なところ
□憎い川
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虚ろな眠りから再び目を覚ましたのは、冷たい風が吹いて川霧が払われ、俄かに視界が開けた時だった。
川面に弱く波が起こり、月か星かの光が青白く反射を繰り返す。
それまではどれ程目を凝らしたところで、何一つ見当たるものなど無かった。それが今では、枯草が延々と続くような川中の島が目先に迫っていた。
これはいよいよ此岸を越えたか…とは思ったが、目の前に広がる光景は、今までに聞き及んできたものとは程遠い。
川縁までびっしりと枯草が地を覆い、丈高い薄の穂が揃って風に揺られていた。
色の抜けた房がさわさわと音を立てるのを聞くうち、じわりと胸に言い様の無い不安が広がってゆく。
此処には己の他は誰一人存在しない。
冷たい風や揺れる草の葉の間にも、緩く波立つ水の中にさえも生ける者の気配は感じ取れなかった。
伴に在るべき者の姿も勿論無い。
乾き切った己が手には、その一片さえも掴む事が出来なかったのだ。
心の奥底では何れこの時が来るのを知りながら、只共に歩む事を望み、口ばかりの諍いを戯れと繰り返してきた結果がこれか。
胸底の燻りは不安から諦念へと次第に形を変え、過去など振り返る事さえ無為に思えた。