文(伝奇物多し)
□弐話
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石段を上った先には古びた堂が建っていた。
庭には灯籠や石仏が幾つもあったが、軒並み伸びた夏草に覆われ見る影もない。
風雨に晒され煤けた戸板が、所々外れ落ちて中の暗がりを覗かせていた。
「ひどい荒れ様ね、聞いていたのと随分違うわ」
「ああ……主が死んでから跡を継ぐものが無かったようだな」
「母がこれを見なくて良かったわ」
そう言って女は、後ろに立つ連れに振り向いた。
「覚えていたはずのものが、何も知らせず姿を変えてしまうなんてね」
「…染跳」
俯きがちの顔は名を呼ばれても上げられない。
埃の積もった板間に視線を繋いだまま、相対する男の袖にそっと手が伸ばされた。