文(伝奇物多し)
□(封印)己が屍、伏して主に従う
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「坊……あっしはもう、ここまででさァ…目ェ開けることもままなりやせん……」
「あァ、見りゃわかる…」
「……せっかく坊がこしらえてくれた左腕も、砕けちまって…ぴくりとも動かねェ」
「それはオマエがでしゃばったせいだろうが」
「面目もありゃあしません……ですが」
死に体で横たわる男がそう言い掛けた時、慌ただしく近づいてきた足音が、幾枚か先の扉の前で止まった。
「ご報告致します!」
聞き慣れた青年の声が響く。
「バキか、三代目の捜索はどうなっている?」
「ハッ、昨日行方を絶たれた影風様… 里外れの谷において、何者かによって連れ去られた模様です」
「それはもう知っている。オレの部下達も巻き添え食らってこのザマだ」
「はい。由良も命は取り留めましたが、意識はまだ戻りません」
「ならさっさと持ち場に帰れ」
「ですが、サソリ様」
「生憎と、こっちも虫の息だ。大したことは聞けてねェ、最期の別れみてェな事は言ってるがな」
「……昔から残っている方ですから……では、戻ります」
そう告げると反顔を覆った青年は、音一つ立てずにその場を後にした。
扉の向こうにいる、死に往く者の最期をわずらわせぬように。