文(伝奇物多し)

□羽炎
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 白い影が視界の端から消え、その後を追うような無数の気配に気付き、手近な枝に手を伸ばして体をかわす。
 間髪入れず、暗がりから幾つもの手裏剣が飛来し襲い掛かった。


 風を切り枝下を過ぎたそれらがガツガツと木々に突き立つ音が響き、数瞬をおいて地上へと何かが落ち叩き付けられるのを聞く。
 と同時に二、三の人影がそのまま通り過ぎ、物音のした方向へと駆け降りていった。


「捕えよ!」
「アレを他国に逃すわけにはいかん!」


 矢継ぎ早に指示が飛ばされ、続いて新たに一人の姿が現れる。

 並みならぬ気配と白い髪。額当てにはその出自を表す印は刻まれておらず、代わりに得体の知れぬ意匠の銀環を首から下げていた。
 どうやらこの男が侵入者達の指揮官らしい。

 誰何の声を上げるより早く相手が印を結ぶのをみとめ、透かさずクナイを放つ。
 だが相手は顔色ひとつ変えずにその場に踏み止まり、切っ先が胸先へ突き立つ寸前に術を完成させていた。


 男の大きく開いた口から一挙に水流が迸り、眼前のクナイを弾き飛ばして放射状に広がる。
 激流が森を薙ぎ払い、押し寄せるのを尻目に後方へと下がろうとした時、背後から赤い閃光が奔り急速に膨れ上がるのを感じた。


 夕日も落ち掛けた薄闇を突如巻き起こった業火が吹き払い、見る見るうちに燃え広がる炎が辺りを照らし出す。
 押し寄せる激流と火焔がぶつかり、渦を巻いてせめぎ合った二つの力が消え失せた途端、凄まじい爆発が起こり熱波と共に拡散した。
 凶器と化した水蒸気が一帯の木々を粉砕し、その跡形もなく消し去った後では地表がぶすぶすと煙を上げる。



「ッ!! もう時間が無い! あれほどの力を使えば…ますます命を削ると言うのに…」


 恐らくは術者を残して焦土と化した大地を後に、再び人影が駆け去って行く。
 傷付けられた森の上へと何時しか月が上り、間も無く中天の位置へと差し掛かっていた。
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