文(伝奇物多し)
□過去を取り、去る者
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見開かれた眼前に拡がる視界は色を失い、辺りに無数の意識の糸を張り巡らせる感覚のみが冴え渡る。
僅かでも術を使えば、その痕跡は燃え差しの様に朧気な光を残しているはずなのだが。
「やっぱり、ダメか……」
最大限の範囲で瞳術を使ったせいか、発せられた呟きには疲労の色が濃い。
既に印は解かれ瞳も通常に戻ってはいるが、未だ残る先日の戦いでの疲労のせいか、不規則な呼吸に肩が揺れる。
尚も見えぬ何かを見定めようと目を眇め、泥水の溜りに激しく雷雨の叩き付けるのを眺めた。
「戦いに勝った俺達が……まさか倒したアンタに一杯喰わされるとはね……」
敢えて己に言い聞かせるように呟かれた言葉は、吹き付ける雨滴に弾かれ消えた。