01/11の日記

03:49
ユピテル・イオシティA
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 このコロニーから外界へと出る宇宙港はもっとも堅牢な基層の下、限られたルートを通り抜けた先にあった。
 その中でも最大のドックは数年に一度しか開かれず、現在は監視員が時折型通りの見回りに来るのみである。
 ここは他に幾つか点在するコロニーらから募られた開拓団を乗せ、新たな地へと旅立つ巨大な移民船を受け入れる為のドックであり、通常はどこまでも無人のプラットホームが続いていた。

 丁度一月程前、約一ヶ月間の停泊を終えた移民船がコロニーを後にし旅立っている。
 数千規模の人員が故郷に別れを告げ、見送る者がどこまでも列をなす光景が繰り返される間、その傍らでは延々と物資の積み込み作業が続いていた。
 自分達の同胞が開拓団の中で今後の勢力を維持し伸ばす為、可能な限りの支援が全住民から集められ仲間へと託される。
 やがて後を追う新たな移民船の乗員数は、その分配率を過去の実績や供出した物資量などから算出されているからだ。
 無論、大々的に世界に向けて宣伝されるのは希望や夢、未来の成功という聞こえの良い謳い文句である。
 そしてその裏では実に複雑怪奇なやり取りが行われ、政治的経済的莫大な労力が絶えず注がれ支払われていた。

 一時の人賑わいが過ぎ去り静まり返るドックは、かつて母星からやってきた開拓団が一番最初に手掛けた建造物でもある。
 コロニーの歴史の最初を知り、やがては訪れる最後もまた人知れずひっそりと刻んでゆくのであろう。
 そこにこの都市よりも更に長くを生き、その行く末をも見届けるを由とした者が先日の移民船から降り立った。

 勝手知ったる足取りで人混みをすり抜け、向かった先は立ち入り禁止の表示がなされた古びた通用口である。
 警告のメッセージを映し出すモニターの前に腕をかざし、僅かに引き上げた袖口から色濃く染色された皮膚が覗く。
 そこに一瞬光の筋が走り、直ぐ様読み取った情報が照合されモニターの警告文がオールグリーンへと移行された。

 久しく帰らなかった住人を迎え入れ、再び無人の静寂を取り戻した扉のモニターが微かに電子音を立て暗黙する。
 この下十数メートルに眠る、銀の髪を持つコールドスリーパーのように。
 

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