憂鬱

□I was caught on that night.
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「また貴方ですか…」

奴が使用するであろう脱出路の前で待ち伏せていると、案の定、現れた。

「おう。えらく不満そうじゃねぇか」

「不満にもなりますよ。何と言っても、貴方は僕の邪魔ばかりする人ですから」

全くもって不愉快そうに、微苦笑混じりでそいつは言った。

「どうして貴方は僕ばかり執拗に狙うんでしょうか?」

おいおい、要領を得ない質問だな。
愚問、とでも云うべきか?

俺は探偵・お前は怪盗。

――理由なんざそれで十分だろう?

そう言ってやったらアイツは、口元と頬筋を緩ませて、嘲笑った。

行けよ。
どうせ今から呼んでもヤードは間に合わん。

今日のところは逃がしておいてやるから、絶対、俺以外の野郎に捕まるんじゃねーぞ。

「お前を牢屋にぶち込むのは、俺だ」

「えぇ、楽しみにしてますよ」

十六夜に照らされ笑う仮面は、いつも通り、無表情だった。

果たして、あいつに感情はあるんだろうか。














さて、俺は冴えない探偵事務所の所長である。

そんなもん急に言われても、と思われるかもしれないが、話の都合上、ある程度は割り切って頂きたい。

そんで、さっき見ていただいたあのバ怪盗は、俺がもう10年近く追いかけている子悪党だ。
なぜ10年にも渡って俺が怪盗なんぞを追いかけていたかというと

話せば長くなるのだが、
俺は高校生の時に、日本へ留学していて、有り得ん事に巻き込まれまくり、卒業と共に祖国に戻ってきた。ら、何と親父の会社が経営難で倒産していて、路頭に迷っていたところ、今の事務所の社長に拾われ、雇われ所長をしているのである。

詰まるところ、10年以上仕事が見つからず、しかも最初の頃追いかけ回していたバ怪盗くんが未だに頑張ってくれているので、俺も足腰痛めながら追いかけているのである。

30間近の男がいう単語じゃないが、
将来の夢は、あのバ怪盗を牢屋にぶち込むことだ。

「あ、所長。お疲れさま」

コイツは俺の直属部下の国木田だ。
仕事は出来るし、いい奴なのだが、淹れる茶は最悪だ。

「ごくろーさん、あ、茶はいらんからな」

「あ、そう?今日は美味しく入ったのに」

「いらんもんはいらん」

お前の味覚程当てにならんものは他にないんじゃないか、と思う程信用ならないからな、国木田の味覚は。

「あ、そう言えば所長。
さっきまた予告上届いてたよ」

「なにぃ!?
俺今帰ってきたばっかりだぞ!
後始末とか事情聴取とか!」

「それはバ怪盗にクレーム付けてよ。せめて一週間置きにしろ―とかさ」

「どうせ聞き入れちゃ貰えないさ。
どれだ?今度の俺の懸案事項は」

「これ。
襲撃日は明日だってさ。
頑張ってね」

「今夜も徹夜か……」



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