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□noise
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「さあ、行くんだ」

背中を押された。どこだ此処は

だが思うのは一つ。この「世界」の匂いは今まで嗅いだことがない。纏わりつく空気もどこか違うような

そして自分が握っている杖と言われた木の枝。すこし太めで握りやすい。いままでこんな馬鹿げた玩具のような石がついた木の枝を持ったことがない

辺りを見渡してみれば先ほど背中を押した黒い鎧を着込んでいる変な人たち。コスプレ…ではなさそうだ

前を見れば沢山の色が目立つ…あれは、旅行者だろうか

否、違う。私と同じで木の枝を持つものや弓道士、武道家や…。なんだあれ、漫画で見たことがある。剣だ

なんだ此処は

なんだアレは

剣を向けられている。「アメルは渡さないっ!!」と声を荒げてきた

ちょっと待って。これは戦うのか?否、殺し合い?殺されるのか?私がなにをした。ただ平凡に安全に生きてきただけの人間が何故剣を向けられなければならないんだ

「あの栗色の髪の少女を奪いかえせ」

は?奪…?

「殺らなければ、殺られるぞ」

は、ちょ、何言ってんの??あの女の子を?アンタがやれば良いじゃん

言おうとしたのに、口も首も。体が糸を無くしたマリオネットのように動かない
いっそマリオネットのように倒れてずっと動かなくなればいいのに

しっかりと地に着いた足を憎みながらその女の子に目をやれば、ボロボロと涙を流してカタカタ震えて怯えている

私が泣かしたのか、何もしていないのに。泣きたいのはこっちだ。気が付けば知らない所に突っ立って、玩具みたいな馬鹿げた木の枝を持たされて一番前まで歩かされてワケが解らぬまま殺されようとしている

泣きたいのは、こっちだ

皆、勝手に連れてきて勝手に剣向けて勝手に泣き出して勝手に…

皆皆皆皆皆、


うぜえ………───


いつの間にか手渡された宝石のような石が、私を力強い光で包んだ。何も見えない

「おいっ、落ち着け!」

後ろの慌てたような声が聞こえた。なんか優越感

相変わらず体は動かず、ただ枝と石を握りしめる。無意識だったことに気が付いた

「不味いぞ、魔力の暴発だっ!」

女の子がいるところから男の人の声が聞こえた。暴発って、なんだ

だけど何でも良い。どうにでもなれ。皆どこかへ行ってしまえ

いなく、なってしまえ

「おーおー、これが暴発ってヤツか。さらに負の感情が溢れ出てると来た!ヒヒヒ…たまんねェなァ」

変な声が微かに耳を刺激する。バカにされているような口調だ

辺りにいた変な集団達は叫び声をあげている。実際聞いてみると、漫画みたいな叫び声ではなく、か細くも必死で有り得ない叫び方をしていた

平凡に暮らしていた私には、一生聞くこともなかった人間の本能から来た絶叫

怖くなってきた。だけど光は更に強さを増していく気がする

「ひいぃいぃっ!?落ち着けっ落ち着いてくれぇぇえっ!!」

後ろいた黒い集団の誰かが腰を抜かしたように声を震わせた。殺れって言ったの、誰だっけ

動かなかった足が動いたことに軽く感動しつつ後ろを振り返ったつもり。周りが光の白さで見えないため、実際振り替えれたのかは解らない

「ネス…っ、あの子、黒の旅団に向いたぞっ!?どうなってるんだ、敵じゃないのかっ!?」

「さあ、それは解らない。今はただ暴発する召喚術を止めることが先決だ!」

後ろにいた旅行者(仮)達がこの光を止めようとしている。邪魔をしないでほしい

今、この時が何故だか気持ちがすっきりするんだ。皆いなくなれ

どこかへ、行ってしまえ

「俺…彼女を止めるっ!!」

「なっ!?君は馬鹿か!今彼女の元へ行ったらただじゃ済まないぞ!!」

どこかに、行ってしまえ

「じゃあこの現状をどうしろっていうんだっ!!俺たちは最悪、大怪我をするだけだ。でも、一番傷を負うのは彼女なんだぞっ!!」

「だからって君にもしもの事があったら元も子もないだろう!」

はやく、いなくなれ

「解ってる…、解ってるけど放っておけないだろうっ!?」

もう、嫌だ

「ったく、怪我ごときで怯むなんざ、ニンゲンは弱ェって自分から言ってんのと変わんねェぜ」

バカにしたような口調。酷く腹立たしい。ふと気が付くと、前にいた変な集団の声が聞こえなくなっていた

逃げたのだろうか、それとも

無意識に石と木の枝を握りしめる力を強めた

「仕方ねェ、テメェに死なれたら還れ無くなるからこのオレが行ってやるさ」

「バルレル…?」

「おい、勘違いすんじゃねェぞニンゲン。オレぁ還り道を失いたくねェだけなんだからな」

纏う光が、大きくなっていくのが肌で感じられた。なんだコレは、と改めて思う。こんなどこかの漫画みたいな光景、始めてみる

そしてそれを作り出しているのは他でもない、何も知らない私だ

この光は私の中を読むことが出来るのか定かではないが、いなくなれと思えば思うほど、周りが白くなっていくのが理解できた

聞けば、不特定多数の爆音や獣のような荒声が周りを囲んでいる。祭りが最後の花火を打ち上げるような賑わしさだ

「まずいぞ、暴発が酷くなっている!!僕らも回避していくのは限界だ!」

「バルレル!…頼むっ、あの子を止めてくれっ!!」

「へーへー」

やる気のない腹立たしい口調が、すぐ後ろで聞こえた

一瞬で、背後へと近づいた声はまた独特の笑い声を囁く

「…っう、っ!?」

刹那、激しく鈍い痛みが腹に伝わる。さっきまで背後にいた腹立たしい声の持ち主が私のすぐ前にいて

私の方に顎を乗せた感触がした。痛さに顔を歪めながら見てみれば、背の低い男の子と密着しているのが解る

そして力は恐ろしいほどに強い。腹に綺麗に入った男の子の拳に手加減という言葉は微量も感じられなかった

憎しみさと、どうして私がこんな目にという無念さを含んだ力が振り絞られ男の子の肩を掴んだが、力と意識が薄れていくのが自分でも理解できた

石と木の枝を持つ力さえ無くし、カランと乾いた音が悲鳴を上げる

たくましく地面に立っていた足がひざを突き男の子の体から滑るように地面に抱きついた

動かなければそれはそれでいい。マリオネットで良いじゃないか。格好いいじゃないか

「これで良いんだろう、ニンゲン?」

意識が無くなる手前で聞こえてきたのは、腹立たしい口調の男の子の言葉

そして爆音や獣の荒声が小さくなっていくような途切れた音

どこか遠くで、誰かが走ってくる音

それらが機械が故障した際に現れるノイズ音のように、どこか心地よく消えていったのだった



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