小説

□ファナティックラブ
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「長い髪」
いきなり撫でられて、私はびっくりして振り返った。
撫でられた瞬間、全身が総毛立つような悪寒を感じたのだ。
しかし、振り返った先でにっこり微笑んだその人はクレオパトラも裸足で逃げ出すような絶世の美女で、その魅力的な微笑みには悪意の欠片も見当たらなかった。

「こんにちは」

見知らぬ人だ。

黒目勝ちな瞳。筋の通った鼻梁。艶やかな赤い唇。
魅惑的で表情はエキセントリック。

「どちら様ですか?」
道端で、見知らぬ他人に髪を撫でられて、困惑しない人はいないだろう。
私は恐々と尋ね、顎を上げた。
その美女はモデル並みに背が高かった。
165cmはある私が見上げるくらいだ。
170cmは軽く越している。ひょっとして180近くはあるではないだろうか。
よくよく見ると、女性にしてはがっちりした体格をしている。長身なので一見わからなかった。
「この髪は切っちゃ駄目よ」
美女は、私の問いには答えず、ウインクをよこした。そして困惑する私にハスキーな声で囁いた。
「あなたの目は『見える』のね。でもその髪は別の力があるから切っちゃ駄目。
それに、とても美しい色をしているもの。もったいないわ」
「 ! 」
さっと背筋を走った緊張に、私は顔をこわばらせる。

「あなた、誰」

しかし『美女に見える者』は、にっこり微笑むと、躊躇いもなく私の髪に触れてきた。
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