小説
□天龍2〜番外編〜
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予定外だっ。
十一、二才ぐらいの少年はあやうく、叫びそうになるのを抑えた。
避暑地として有名なヤールの森。
その居心地の良いセレブリティな場所で、今年の夏をゆっくり過ごそうと提案したのは、もちろん少年自身で、嬉々として封魔師という魍魎退治の仕事を詰め込もうとした相棒ではなかった。
夏、まるまる?
不満そうにそう呟く相棒を説得したのも、もちろんコテージを予約したのも、日用品を運び込んだのも、食材を買いあさったのも言わずもがなだ。
そう。少年はこの長期のバカンスにいろいろ妄想を抱いていた。
あんなことや、そんなことやこんなこと。
それはもう、言葉ではたとえようのないロマンティックで夢のような生活を相棒と過ごす。
それがガラガラと音をたてて崩れていく。
相棒に躊躇いもなく抱きついた少女は、天使のように可愛らしく、少年は制止をかけるタイミングを完全に失った。
まさに美男美女。
おー、びゅりほー。
少年以外の人がいれば、きっとそう叫んだことだろう。
「サイカ。サイカ。本当にサイカ?」
華奢な腕が遠慮なく深く絡みつく。
こんな森の中だというのに、派手なドレスを身にまとった少女は、熱っぽい視線を相棒に送った。
少年はアウトオブ眼中だ。
「会いたかった。あれからずっと、ずっと会いたいって思っていた」
「リーナ!」
そして、一瞬息を飲んだ相棒は我に返ると、開口一番感嘆の声をあげたのだ。
「綺麗になったなぁ」
「あら、これなら奥さんに貰ってくれる?」
「ああ。貰う貰う」
腕の中でにっこり微笑んだ少女に、相棒は何のためらいも無く頷き、更に抱き返す。
少年は、絶句して、そんな二人を見ていた。
予定外だっっ。
叫べるものなら叫んでいた。
これが、少年ジークが綿密に計画をたてた夏のバカンスの始まりだった。