お題
□不思議言葉
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01.冷たい箱(種よりキラカガ)
「キラぁーキラー?」
フレイの声がコックピットからも聞こえる。甘い、ねだるような声。キラを探しているようだった。静かな空間に、声は響き
渡っているはずなのに。返事はなかった。
辺りは誰もいなく、夜。寝静まっていた。いても。
___誰も、何も言わない。
アークエンジェルの中で、キラとフレイの関係を知らないものはいないだろう。たぶん、サイのことも…。
キラは薄い毛布に包まって身を縮こませた。固く腕を結び、顔を埋め耳を塞いだ。
固い座席。戦闘用のそれはもともと寛げるようには造られていない。背中が痛かった。室内も、寒い。艦内は一応空気調節が
されてはいたが、ガンダムが整備され収容されるここの部屋までは行き届いてはいない。砂漠は抜けていた。それでも昼と夜
での気温差は激しく、夜は非常に寒かった。
きっと、コーディネーターでなかったら耐えられなかっただろう。キラは思った。でも。ナチュラルであったならココにいる
こともこんな思いをすることもなかった。
あきらめたのだろうか、フライの声は止み辺りは静かになる。
キラは逃げていた。フレイから。
大好きだった、女の子。最初、キスをしてくれたときは嬉しかった。体を開いてくれたときも、躊躇わなかった。
気づいていた。
復讐のために利用されていることも、本当は自分を憎んでいるだろうことも。
それでも、キラは癒されたかった。自分を必要としてくれる存在が。守ってくれる人が。帰ってくる場所が。
じゃなきゃ戦っていけない。先に自分が狂って、死んでしまうのだ。
皆を守らなきゃいけないのに。それが、自分の存在意義だというのに。
キラはフレイに依存した。だけど、次第にそれもキラは辛くなってきた。フレイを抱くたびに思う。戦闘からくる死への恐怖
、後悔と懺悔、喪失と性の衝動。欲望にまみれ、感情に溺れながら、行き着く先は利用されたのだ、自分は被害者であるとい
う被害妄想。そして、自己嫌悪。
結局、救われない。
「なーにしてんだ?」
上から声がして、キラは顔を上げた。ハッチには、金髪の少女がしゃがみこみこちらを窺っていた。砂漠からここにきた不思
議な少女。よく、キラに絡んでくる。
「………」
何もいわず、キラは拒絶を露わにまた顔を埋めたが、少女は構わなかった。コックピットの中に入ってくる。
「何してんだよ?こんなところで」
「…寝てる」
しかたなく、キラは返事を返す。
「こんなところで?狭いし固いし体が痛くならないか?…みんなと同じところで寝ればいいのに」
「………」
知っているのだろうか、こいつも。フレイとのことを。知っていて、そんなことをいうのか?疑って、心が冷める。ドロっと
したものが沈み込んでいく感覚。
「…キラ?」
目が合った。すっと、近づいて顔が前にくる。ぎゅっ、と抱きしめられた。
「体、冷たい」
「……カガリ」
どうして、こうも構ってくるのだろうか?ほっといて欲しいのに。
抱きしめる腕を解こうとして、途中でやめた。触れる場所から体温が伝わって、あたたかい。
「カガリの体、あったかい」
こぼれた言葉に、キラ自身が驚いてしまう。さらに、腕の力がこもる。
動くことが出来ない。そのまま、されるがままじっと身動きせずに体を強張らせる。カガリの体温は、どこかからだの奥を痺
れさせた。甘い、疼き。なにか、勘違いしそうになる…。
間があった。
ぽんぽんと背が叩かれ体が離れる。
「…元気出たか?」
照れくさそうに、カガリが問う。
「…何?」
「お、おまえ。…元気なさそうだったから、…毎日。みんな、避けてるみたいだったし」
声が、小さくなる。どこか艦内の人間とキラに不協和音が混じっているのは感じ取っているのだろう。そっけなく言っていた
が、それでも言葉は遠慮がちだった。
励まそうと、していたのか。それで、探して…?
……本当に?信用できない。放って置けばいいのに。放って欲しいのに。とたんに、感じていた痺れがすっと引いていってい
く。
カガリの気持ちは知らない。本当は心配しているだけかもしれない、砂漠でも虎と合った時もカガリは真っ直ぐだった。気持
ちに裏があるような人間にはみえない。それでも気持ちは逆流していく。
「ほっておけばいいのに」
「え?」
「僕のことなんか、放って置けばいいのに。どうして、かまうの?
僕が、コーディネーターだから?必死に戦って、勝って貰わないと困るからご機嫌でもとるの?」
「……っ」
頬を叩かれた。打たれた場所が次第に熱くなっていく。
叩いた手を見てカガリは傷ついた顔をみせた。
「…ごめん」
言い残して、カガリは去った。
残されたキラ。
冷たい。カガリの体温はすぐに消えて。温もりをまだ探そうと、キラはカガリがいた場所に触れてみたけれど。
鉄の箱は冷たかった。