お題

□不思議言葉
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07.難解な囁き(おお振り 準島準)

部の帰りだった。

いつもの道をいつも通りのメンバーで帰る。島崎と準太と利央。本当はそこに河合もいるのだが、今日はクラスの用事がある

とかで3人で先に帰ることになったのだ。

今日はいつもより早く部活が切り上げられ、3人はすこし不燃焼気味だった。欲求不満。体が、動きたりない。

まあ、頭の方は授業で既に擦り切れているが。

帰り道をただ、歩く。

腹が減った。言う言葉といえばそれくらいで、特にそれといった会話もなく足は誰も何も言わないが自然、コンビニへと向か

う。

だれていた。

が。だらだらと、足を引きずって歩く利央に島崎が顔を顰める。

「りーおーう、その足、やめろって。靴の底、擦り切れるぞ」

「えーいいっスよー、コレ、兄貴のお下がりだし。つか、もうすでにボロボロ。くさいし」

「におったのかよ」

「におってないけど、そんな感じするじゃないですか。ほら、これ」

利央が島崎の顔に向かって足を上げる。嗅いでみろ、ということらしい。靴が島崎の顔ギリギリをすり抜けた。

「うわっ、きたなっ!てか、あぶないし。先輩に足向けんなよ。しかも生足。靴下はけよ。くせえよ!……っわー、おまえの

、後から効いてくるんですけどー!」

利央がむっとした顔になる。
「部活の時ははいてましたー」

「だったら今も、はけよ」

「やです。だって、くせえもん」

「おまっ、じゃその靴くせえの兄貴じゃなくておまえのせいだろ!」

「ちがうって!なんか、兄貴のほうがすごい気がする」

「それ、おまえの想像じゃん」

不毛な会話が続いていた。そこに、今まで黙って歩いていた準太が口を開く。

「……2人とも仲、いいんすね」

ぼそりと、低い声。それでも、2人には聞こえていて、準太に振り返る。いつの間にか、2人だけで並んで歩いていて、後ろに

準太がついてきているかたちになっていた。

「えー、準さん何いってんスかー?!」
「準太焼きもちー?」

2人の声に、準太は仏頂面で応える。

「だって、…慎吾さん」

「はい?」

名指しで呼ばれた島崎は、何事かと少し構える。準太は拗ねているようだった。

「俺も、靴底すって歩いてたんすけど……!」

「…え?」

えーと、島崎は頭を廻らしてみたがいまいち準太が何を言おうとしているのかがよくわからない。顔色を窺ってみるも、仏頂

面のまま。

「だから、俺も足引きずって歩いてたんです!…しかも、利央よりずっと先に…!」

まだわからないのか、そんな顔ですごまれて、島崎はそうなのか、と頷くしかない。うんうん、と首を縦に振る。

「…慎吾さんは、俺の隣にいたのに、利央の靴底気にして!俺のほうが引きずるの酷かったのに、利央のばっか注意して!何

スか、そんなに慎吾さんは利央が好きなんですか!……それとも、俺なんか……っ」

「え?あっ……えー?」

何なんだ、この展開は。島崎は言う言葉が見つからない。

そういえば、準太は隣にいた。靴も引きずってたのかもしれない。でも、利央も隣にいたのだ。

島崎は2人の間、真ん中で歩いていた。利央を注意したのは別に他意はなかった。ただ、目に留まってしまっただけ。気にな

ったから島崎は注意しただけだった。

「あの、な。準太。別に利央を注意したのはたんに利央に目が留まっただけっていうか」
…なんで、こんなこと言い訳しなくちゃいけないんだろう。島崎は思ったが、口に出しても顔に出しても準太が怒りそうだっ

たのでやめておいた。

「じゃあ、慎吾さんは俺なんか、目に、留まらないんだ…!」

えー、そうきたかー!準太は普段は大雑把なくせにこういうこと、細かいというか……しつこい。

準太の機嫌は目に見えて悪くなる一方だった。島崎は助け舟を、と利央の方を見るが利央は1人離れて電信柱にもたれて携帯

をチェックしている。……関わる気は毛頭もないらしい。


「あ、あのさー、準太」

何だかわからないが、ここは謝って穏便に済ませたい。

「ご、ごめんなー。別に準太を無視した訳じゃないから、気ぃ悪くしたら、ごめん」
「……………」

両手を顔の前に合わせ謝れば、準太は黙っている。……腹の虫は収まったのか?

「…利央だけじゃないです、カズさんのときだって…」
準太の言葉に島崎は合わせた手を解く。準太は俯いていた。

「え?和己?…和己がどーした?」

「こないだの昼休みだって、俺も一緒にいたのにカズさんとだけ楽しそーにしゃべってたじゃないすか」

「お前な、アレはしょーがないだろ」

確かに昼休み、島崎は河合と準太と部室で昼食を取っていた。最初はニュースのお天気お姉さんの話だった気がする。そこか

ら話がどう転んでいったかは忘れてしまったが、話はいつの間にか再来週から始まるテストの話題に移っていた。チェバの定

理やらメネラウスの定理はあーだこーだ言っていた。野球部は比較的頭が悪い。早急にテスト対策は対処しておかなければ、

後が怖い。…特に、3年生ともなれば。

準太を置いてけぼりに、2人で話していたかもしれない。…まあ、頭も弱めの野球部員である準太が1学年上の教科などわかる

はずもないし、1年後もわかってるかどうかもあやしい。

「…たとえば」

「例えば?」

「たとえば、ですよ。俺とカズさんがいます。2人が慎吾さんに別々に遊ぶ約束をしました。同じ日、同じ時間に。…慎吾さ

んは誰を選ぶんですか?」

「和己」

「………!」

準太の顔が真っ白になっていくのを見て、慌てて島崎は付け足した。
「だって、友達じゃん」

「お、俺は…?」

「…後輩」

「ひどい!」

酷いも何も、と島崎は思ってしまう。

「準太だって、俺と和己選べってったら和己を選ぶんだろ?」

「はい」
即答だった。

「だって、カズさんは俺のキャッチャーですもん」

「…あー、だったら俺もそんな理由だよ」

「何がですか?」

「俺が和己を選ぶ理由」

「全然違いますよ!」

「なにがー?」
…だんだん、面倒くさくなってきたんだが。

「慎吾さん内野じゃないすか」

………何してんだろうな、俺。

真剣な顔の準太に背を向けて、息を吐いた。

「話は終わってませんよ!慎吾さん!何溜息ついてんすか!」
準太が喰いついてくる。

「あ、あれ?もう話済んだんスかー?」
のんきに利央が話に加わってきた。

「うっさい利央!!」

「え?準さんひどっ!!…慎吾さーん、何とか言ってこの人にー」

「この人ってなんだよ、俺はお前の先輩だろーが!」

「いででっ、し、慎吾さんー!!!」

利央は準太に羽交い絞めにされて、島崎に助けを求める。

「………」

島崎は無視することにした。先に歩き出す。

「!!!慎吾さん、まだ答え、聞いてません!」
準太が島崎を追いかける。腕を利央に巻きつけたまま。自然、利央は引きずられる形となって首が絞められる。

「し、死ぬー!!」

早く、コンビニに行こう。コンビニに行って腹に何か詰め込んでもしたら、この無駄やり取りも収まってるに違いない。島崎

はポケットの財布を握り締め、再び息を吐く。

…きっと、たかられるに違いないのだ。
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