現し世の夢
□序章 幕開け
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森を掻き分けて、少女は追っ手をまくために疾走する。
何があろうとも、自分は連中に捕まってはならぬことを、彼女は幼いながらも理解していたのだ。
こんな事になるなら集落の外を見てみたいだなんて考えるんじゃなかった。
そう内心涙するが、こればかりは完全に自業自得かつ後の祭りだった。
やがて、少女の体に蓄積した疲労が限界に近づく。
それでも走る速度は緩めなかったが、代わりに落ちていくものがあった。
集中力だ。
「――――っ!!?」
根に足を取られ、見事に転んでしまった。急いで起き上がろうとしたが、全く力が入らない。体が休息を訴えかけているのだ。
そして、ようやく顔を上げられるようになった瞬間、絶望がやって来た。
「手こずらせやがって……」
見るからに野蛮そうな集団に、完全包囲されていたのだ。
少女はとっさに懐から紙切れを取り出すが、使用する前に地面に押さえつけられた。
「いくら召喚師だろうが、召喚術使わせなけりゃあ只の小娘だよなあ?」
下品な笑い声を上げる男を上目遣いに見て外道、と呟く。
意味はよく解らないが、悪口であることは知っている。
その証拠に男が自分の頭を踏みつけてきたが、何とか悲鳴をこらえる。
「何を遊んでいる。さっさと連れて行くぞ」
「へいへい……」
頭から足が退かされ、両手足を縛られて肩に担がれた。
そして、少女がこれまでか、と覚悟を決めた瞬間。
救世主の声が響き渡った。
「そこまでよ、この変質者ども!!」
少女は思った。
――その感想は何かが激しく違う。
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