現し世の夢

□第三話 赤光の呪姫
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鉱山の町テムトは、読んで字のごとくな町だ。
目玉と言えば鉱山と、そこでとれる鉱石に目を付け、移り住んだ鍛冶師ぐらいのもの。

そして、その鍛冶師の一人が、バナスの愛弟子であるゲインであるというわけだ。




「で、どんな人?」

二人の後をついて行きながら、ヒナギクは問うた。
荷車の中では新しい恋愛小説に夢中になって、すっかり尋ねるのを忘れていたのだ。

「そうだなあ……僕は数回しか会ってないけど……怖い人かな?」
「ま、レグにはね〜。若い男の人には容赦ない人だから」
「どうして?」

ヒナギクは何も考えずに言ったのだが、ユリカは何故か顔を真っ赤にして、「知らない!」と言い、そっぽを向く。
一方のレグは肩を落としながら、「こっちが知りたいよ」と呟いていた。

何となくピンと来たが、言ってぶたれたらたまらないので止めておいた。
あの痛みを忘れられるまで、決して軽はずみな発言はするまい、とヒナギクはあの時誓いを立てたのだ。自分に。


――それに、行ってみればすぐにわかる事だろうし。


と、その時は思っていたのだが……。




「――あれ、留守?」

いざ着いてみれば、出迎えるものは誰もいない。

「連絡したはずなんだけどなあ」
「と言いつつ、勝手に入っちゃうんだね」
「良いじゃない。鍵貰ったなら、許可は無条件で降りてるわよ」

そう言い返し、ユリカはさっさとゲイン宅に入っていく。
レグはそれを見送りながら、ため息をついた。

「ユリカにはね」

その呟きは彼女が先行した後なので、聞こえることはない。


「フィル――? いる?」


中でユリカがフィリエルを呼ぶ声がする。
ヒナギクの胸の奥で、心臓が跳ねた。



――そうだ、私はフィリエル様と話さないといけないんだった。






見かねたレグが手を引くまで、ヒナギクはその場から一歩も動けなかった。


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