現し世の夢

□第六話 雷雨に消えゆくもの
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これで、本当に良かったのだろうか。


木々に隠れて見えなくなった里を見やりながら、ヒナギクは未だに迷いを捨てられずにいる。



ウコンの言うとおりに、迎えにきた彼女のもとで修行をすること、それに文句があるわけではない。必要なことであるのは理解しているから。

ユリカ達に別れを告げる間もなかった事は、少し残念だが仕方がない。あまり斜陽郷に長居をしては訳にはいかないと、ウコンと彼女に強く言われてしまったのだ。
彼女によれば「彼らとはまたすぐに再開すると、星の巡りが告げている」らしいから、それを信じることにした。





「さて、ここら辺なら『門』の影響は無さそうね」


彼女は突然立ち止まり、こちらを振り返る。
改めて見ても、彼女は一見すれば龍人族の若い女性だった。けれど、彼女はウコンと同じ龍神なのだ。
それに龍神の年齢と外見年齢は一致している訳ではない。彼らの中には自分の外見を変化させることができる者もいるから、見た目はあてにならないのだ。
その証拠に、龍神としては彼女の方が先輩であるらしい。



と考えている間に、彼女の体から膨大な魔力が放出されはじめた。
これがヒナギクなら、これだけの力を発揮すれば確実に数分でへばりそうだと言うのに、彼女は涼しい顔をしている。
自分はこれを目指さなくてはならないのだと思うと、途方もなくなる。

「あたしから離れちゃだめよ?」

そう言いながら彼女はヒナギクの肩を掴んで引き寄せる。
ふわりと香るのは大人の女の匂い、ではなくお酒の香りだ。しかも、かなり強い。

周りの風景がぼやけて行くまでの間、ヒナギクは「ひょっとして、とんでもない人に弟子入りしてしまったのだろうか」と考えた。




そして、ヒナギクの不安が現実になるのは、そう遠くない未来での事であった。









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