現し世の夢

□第二話 絆のカタチ
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そんなこんなで、日が沈むまで買い物は続いた。
ヒナギクの服を選ぶのにも結構時間がかかったのだが、ついでにユリカも服を選んだりもしていたので、想像以上に時間がかかったのだ。

ユリカいわく「選ぶ過程を楽しむのも買い物の内」とのことだが、本音は買ったものに表れていた。


少し厚手の、旅用のマントだ。軽くて、洗いやすそうな素材の。

ふと、昨日休憩した時に寄った河川で、必死の形相で服を洗う彼女の姿を思い出した。


――そういう問題ではないと思うんだけどなあ。


レグは楽しそうに会話をする二人の後を歩きつつ、ぐるぐると考えていた。

血液というものは、大体は洗えばすぐに洗い落とせる場合が多いのだが、今回は訳が違う。


傷つけ殺し合う過程で浴びた血は、呪いがごとき魔性を持つのだ。
そしてそれは匂いや記憶となっていつまでも纏わりつき、心を蝕み、やがては酔わせて狂気を招く。
根っからの戦士であるか、強靱な精神を持ち得ぬ限り、いつかは屈してしまうだろう。

特に、ユリカの場合は――




「レグ?」
「いっ!?」

我に返ってみれば、ユリカに顔を覗き込まれていた。

近くに顔があって驚いたレグは、後ずさりの途中で石につまずき、後ろに倒れてしまった。
ユリカは宙に放り出された荷物を見て事態を把握し、素早い動きで次々と捕まえていく。
最後の一個のみは捕らえ損ね、地面に落下したが、それは何とかレグが受け止めた。


「もう、何やってんのよ!」
「ご、ごめん……」
「ほら、行きましょう?」


差し伸べられた手を握ると、ごつごつとした感触がした。だがとても暖かくて、優しい手だった。

この思いが杞憂であれば良いと、レグは願わずにはいられない。
彼は知っているのだ。修羅の道を歩み、二度と戻る事のなかった者を。

あんな想いは、二度と味わうものではない。

ましてやユリカもそうなるなんて想像もつかないし、考えたくもなかった。



「ちょっと、いつまで握ってるのよ」


ユリカは周り(主にヒナギク)をちらちらと見ながら、非難がましい口調で言った。
どうやらまたしてもぼーっとしていたようだ。
慌てて放して、再び謝った。頬が熱いのは決して気のせいではない。
その時彼女は背を向けていたので、表情はよくわからなかった。
もしかすると、ご立腹かもしれない。どうしよう。

そして、宿に帰るまでの間、ユリカはレグと一言も口をきかなかった。






その間中、ヒナギクの顔がずっとニヤニヤしていたが、絶対に気付かないフリをし通す事にする。



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