まほろ駅前
□whisky bonbon
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今日の仕事はバレンタインのチョコレート販売だった。どうやら店の子がみんな休んで人手が足りなく困っていたらしい。
だからといってこんなおっさん二人に売らせていいものか…まぁ、俺には関係ないか。
支給された白のコックコートと黒のエプロンに着替えた後、無駄に顔がいい行天にお得意の看板を持たせ、多田はレジに専念する事にした。
仕事を終え制服を返しに行くと「助かったよ。よかったら」と紙袋に入れられた売れ残りのチョコをいくつか貰った。「すいません。」と一礼して行天が待つ軽トラに戻る。
「ほら、やる」
助手席で待っていた行天に紙袋から小さな包みを取り出し渡す。
「何これ」
「貰った。売れ残りだとよ」
「ふぅん」
晩飯を何にしようか考えながら駅前を通り事務所へ軽トラを進ませる。
信号が赤に変わると無言でチョコを食べていた行天が話し掛けてきた。
「多田、多田」
「なんだ?…っわ!」
ぐいっと胸元を掴まれ引き寄せられたかと思うと唇を押し付けられる。
驚いていると行天の舌と一緒に甘いものが侵入してきた。あ、チョコか。ほんのりとウィスキーの味がする。チョコが溶けると唇を解放された。
急いで誰かに見られてないか周りの車を見渡したが大丈夫そうだった。
「な、なにを…」
「青になったよ」
その言葉にハッとなりアクセルを踏む。
「ハッピーバレンタイン」
まだ口の中にはチョコレートの甘さが広がっていた。
END