まほろ駅前
□オムライス
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事務所兼住居であるこの部屋にしては珍しい光景だった。
インスタントラーメンのお湯を沸かすことにぐらいしか活用されていない炊事場に肉やら野菜やらが入ったビニール袋が広げられ、この部屋の主である男が立っている。
ついでに不規則なリズムで何やら食材を切っているような音もしている
そもそもこの状況の原因は一時間ほど前の会話からだ
「多田って自炊しないの?」
「何だよいきなり」
「オムライスが食べたい」
「…めんどくさい」
「あ、作れないんだ。」
「そんなことない。俺だって作れる」
「じゃあ作ってよ」
自分でもうまいこと口車にのせられたと思うがあんな言い方をされて引き下がれるわけがない
めったに使わない炊飯器で炊いた米で必死にケチャップライスを作っていると行天がまだー?とソファーに寝そべったまま聞いてくる
このやろう…
まぁ行天が何かを食べたいと言うことなんてめずらしいし、ムカつくが多目にみてやろう
「もうすぐだ。だから待て」
出来上がったケチャップライスを卵で巻いてやっとオムライスが完成した。
…まぁ少々不恰好だがオムライスには違いない。
「本当にオムライスだ」
「当たり前だろ!!!」
行天の元に持っていくと子供のように目を輝かせパクリと一口口に運んだ。
初めて作ったのだやはり感想が気になる。
「うまい」
「そ、そうか」
その一言にホッとした反面素直に誉められるとは思ってもいなかったので顔が熱くなる。
うん。さっさと食べてしまおう。
半分ぐらい食べたところで行天がいきなり話しかけてきた。
「俺、子供の頃オムライスが食べたくてさ、母親に頼んだことがあったんだ。そしたらいやよって金渡されてさ。ムカつくったらありゃしない」
行天から時折聞く親の話、それは酷いもので子供心を傷付けるには十分なものだった。正直俺ならグレているだろう。
「また作ってやるよ。こんなのでよかったらな」
「あ、ケチャップ付いてる」
「ん?どこ…」
発した言葉はそこそこ、と近づいてきた行天の唇に見事吸い込まれた。
END