まほろ駅前

□秋雨前線停滞中
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しとしと

しとしと


ここ一週間まほろ住民は雨に悩まされている。
秋雨前線が原因らしい。街からはいつもの賑わいが消えていた。人というものは不思議なもので雨の日は個人差はあれど大概の人は憂鬱な気分になる。情緒不安定な気もする。
多田便利軒もまた雨に悩まされていた。

客が来ない。
全く電話が鳴らない。
やる気もなく便利軒の二人はソファーでだれていた。

「おい。行天」

「んー何?」

「重い…」

適当につけたバラエティー番組を二人で観ていたら、いつの間にやら多田の膝を行天の頭が占拠していた。

「いいじゃん別に暖かいし」

確かに半袖では少し肌寒い季節になってきたし、離れて座っているよりかは暖かい。
しかし重い事には変わりない。起き上がる気配のない行天を無理矢理にでも起こそうかと思ったけれど雨のせいかそれすらもめんどくさかった。

「はぁ…もう好きにしろ」

「好きにする」

行天はにぃと笑って目を閉じた。寝るのかよ…枕か俺は。俺の膝なんて硬いだろうに。物好きな奴。
多田はもう一度ため息をつくとテレビに視線を戻した。


「止まないな、雨」

観ていた番組も終わり膝を行天に占領されている多田はいよいよ暇になってきた。膝の上をみると行天が気持ちよさそうに寝ている。
「このやろう…一人で寝やがって」

なんだかムカついて鼻を摘んでやった。





「…………すはぁー」

「こいつ…」

慌てて起きるかと思いきや何事も無かったかのように口で息をし始めた。…おもしろくない。
また、多田は暇になり、部屋には行天の寝息だけが響き始めた。
雨の音がやけに耳に付く。

「何だよ…」

行天は寝ているだけで確かに此処に居るってのに何だか一人になったような気がして不安になる。
これからも行天が此処に居るかも分からない。
一人には慣れていたはずなのに雨のせいだろうか。それとも…

「呑気に…寝やがって…」


多田も眠たくなったのかこくりこくりと舟をこぎはじめた。



「俺はあんたとずっと一緒に居たいよ。」


行天の唇がかすかに動いたのが見えた。だけど何を言ったのか分からない。何て言ったんだろう。
でも何だかすごく安心したような気がして頬が緩んだ。

多田は聞き返すこともできずにとうとう睡魔に負けて意識を手放した。





END

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