花霞堂

□不幸少年
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 授業終了の鐘がなり、人の波に乗って食堂へ行く。食堂は相変わらず混んでいた。
 二学期初日、四條砂々はうんざりとしながら食堂の中に入った。しかし奥には進まず、手前の券売機の前で並ぶ行列の最後尾に着く。砂々が並ぶと後ろから遠慮容赦なく強い力で押され、思わず小さく声が漏れた。相変わらず自分の扱いは酷い、そう思いながら。

 砂々は昔から幽霊と云った類が見える人間だった。おかげで生まれてからこの方、友人と呼べる人物が生者にいない。砂々にとっては普通に友人と喋る感覚で幽霊と会話する様子が、周りには当然空気と会話しているようにしか見えないため、気味悪がられ近寄られなかったのだ。
 そんな事が続くうちに幽霊と会話する事を止め見えないふりをしていたが、如何せん世の中そうは上手く出来ていない。時々幽霊と生者の区別がつかず、うっかり幽霊と会話してしまった光景を偶然クラスメートが見ており、あっという間に奇人変人扱いされてしまった。暇を持て余している輩は、その時間潰しを砂々に向けたというわけだ。
 そして現在に至る。

 砂々が食券を買うために並んでいれば横入り押し退けは日常茶飯事、授業中にゴミが飛んでくる事もしばしば。どうやら砂々の背後にあるゴミ箱を狙っているようだった(と願いたい)。

 段々人が減り、ようやく砂々の番が回ってきた。思考に没頭していた砂々は慌てて財布から小銭を出すが、運悪く小銭は財布から零れ落ち、砂々から10メートル程離れた場所で止まった。
 砂々は溜め息を吐きながら小銭を取りに行く。回収しようと手を伸ばした瞬間、横から誰かの手が伸びてきて小銭を拾って行ってしまった。

 砂々が人から避けられる理由はもう一つあった。極度の不幸体質なのだ。
 普通に廊下を歩いているだけで物を落とす、破壊する、転倒する、等々周りから失笑を漏らされるような性格のため皆呆れているようだった。
 先程取られた小銭何かもよくある光景で、最早周りは気にも止めない。その事に砂々は少し寂しいものを感じながら、しかし何か行動出来るわけもなく。券売機の隣に貼ってあるメニューを未練がましく睨む事しか出来なかった。


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