小説A

□勇者と魔王と姫君と
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無機質な石壁の部屋の中に、彼は居た
大きな体に、薄いピンク色の豪華なドレスを纏った姿と一国の姫君という彼の身分は此処―――牢獄にはあまりに不釣り合いだった
その証拠にドレスのデザインによりさらけ出された肩は小刻みに震えていて、三白眼な瞳からはぽろぽろと大粒の涙が溢れ出していて、
小さく開かれた口からは、うわ言のようにただ一人の名前が紡がれていた

あまりに暗すぎる部屋で彼は呼ぶ
小さな希望に縋るように

信じるように



「…………ユウトくん…」















「ここか………っ!」


城の中に、彼は居た
重たい剣をさもそんな事ないかのように平然と振り、羽織ったマントをボロボロにし、体中に傷を作り、彼はそこに立っていた

彼の愛しい人を拐った魔王の居る扉の前に


苦々しい顔をしながら扉にそっと触れ、ユウトは思い出す
あの時の事を―――…

愛しい人と笑い合いながら、広い花畑で花を摘んでいたあの時
彼の持っていたかごには可愛らしい花が沢山入っていて、とても幸せな表情をした彼を見て、自分も幸せに浸っていたあの時

そして―――突然現れた黒い影
浮き上がる愛しい人
落ちていくかご
散らばる花
彼の涙と悲鳴
そして、何もできない無力な自分

あの時彼は、自分が1番大切で、愛しいと思うロカを奪われて―――何も、出来なかった
彼の名を叫ぶ事しか出来なかった
目の前で、風のようにあっという間に拐われたロカの名前を

けれど、今度こそ


「今度こそ、君を守るから」


そうして柔らかく微笑んで、ユウトはその扉を開けた










「!ロカさん!!」


扉を開けた瞬間目に入ったのは、王座の下に固定された柱に両腕を上げた状態で手首と足首を縛られているロカの姿だった
ロカはというと、突然現れた恋人に虚ろながらも驚いた顔をして、蚊の鳴くような声で言う


「………ユウ……ト…くん…………?」

「ロカさん!今助けますから!」


言うが早いかユウトはロカに向かって駆け出した
体中もうボロボロだったけど

そんな事、構いやしない




「そこまでだ」

「!!」


刹那、尖った気配にユウトは剣を抜いた
煌めくモノ同士が自分の目の前で衝突
そして押し合い、弾かれたように離れ合う
体勢を立て直しながら再び苦々しい顔をしてユウトは相手を睨みつける


「魔王………タカーヤ……………ッ!」

「ここまで来た事は褒めてやろう勇者ユウト」


そう言って同じく体勢を立て直したタカーヤはニィ、と笑う
たった今ぶつかり合った剣を指ですぅっと撫でながら


「…………どうも。それよりロカ姫を返してくれませんかね」

「それは無理だ」

「どうして?」

「決まってんだろ、コイツが必要だからだ」


コツ コツ コツ―――

靴の音を響かせながらタカーヤはロカに歩み寄り、その頬に触れ、微笑む
あまりのおぞましい光景にユウトの全身の毛が逆立った気がした
こらえなくては、爆発してしまいそうだ



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