小説A

□幸せに染まれ土曜日よ
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今日は金曜日
明日は練習、のはずなんだけど
明日はモモカンもシガポもどうしても外せない用事があるらしく、急に俺らは暇になってしまった
水谷は、チャンスと言わんばかりに一緒に映画を見に行こうと言った
なんでも、割引券を手に入れたようだ
用事は無いし、安く映画は見れるしで俺はいいよ、行こう。って言ったけど


「………………」


家へ帰って、ああ、やっぱりどうしようって思った

家に着いて、夕飯食って風呂入って、自分の部屋へ行った途端、何でか俺は突然あの人に会いたくなった
声が、聞きたいと思った

それなら簡単、この携帯のボタンを数回押せばすぐに通じる
けれど何でかそれが憚られた
電話番号を出す所までいって、俺は携帯を床に置いた
明かりの点いていない部屋で唯一光を放つ液晶画面をぼんやりと見つめながら、膝を抱え込んで、やっぱりまたぼんやり
俗に言う体育座り。
自分で自分の体を抱きしめる
本当に抱きしめたいのは、そんなんじゃないって、分かっているけど


目を閉じた
なんかどうしようもなくなって
会いたいけど、声が聞きたいけど、自分から電話はかけたくない
矛盾、してる。けど、会いたい
会いたい、なぁ



ブブブ、と 床の携帯が揺れた

画面が明るくなっていて、そこにたった今俺が望んでいた番号と名前があって
俺はすかさず、電話を取った


「もしもし?」

『あ……俺』

「分かりますよ」


俺はクスクスと笑いながら言った
呂佳さんの言葉が面白かったのと―――

耳元で響く、待ち望んでいたその声が、とてもとてもくすぐったかったから


「どうしたんですか、いきなり電話だなんて」

『…………………怒らない?』

「何をですか。………怒りませんよ。で、なんですか?」

『……………声が、聞きたくて』

「………ははっ」

『ええ!?ご、ごめん勇人くん!そそそそそれだけなんだ!じゃ、じゃぁ切る!切るから!』

「切らないで、呂佳さん。」

『え………』

「まだ、切らないで」







ああ、このくすぐったさが永遠に続けばいい
俺の世界が、全てかわいいかわいい貴方だけになればいい
人はこれを、独占欲と呼ぶのでしょうか


『あ、あの……勇人君?何か…あったのか?』

「何でもないですよ。それより呂佳さん、」















「土曜日に、どこか出かけませんか?」


ああ、手を繋いで歩いたら、この感情も少しは治まってくれるのだろうか










幸せに染まれ土曜日よ
(土曜だけと言わずにずっと、ずっと)







→あとがき

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