小説B

□snow,battle, and...love.
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しんしんと、白く白く降り注ぐ


深く冷たく、そう、これは―――




「………雪、だ!」


深まった冬を伝える、素敵な贈り物
















「ってな訳でやるぞー、雪合戦。とりあえず俺と三橋は同じチームな」

「………………ちょっと待てェェェ!」


地面に降り積もった雪に花井の叫び声が反射して、それを皮切りにしたかのようにその場に居た阿部と三橋以外の全員が溜め息をついた


「大事な話があるっつーから休みなのにわざわざグランドまで来てみれば……何だよ雪合戦って!お前の大事な話は雪合戦なのか!!?」

「まぁ落ち着けよ花井。」

「誰のせいだと思ってんだ!」

「雪合戦はいいぞ。部員の仲も深まるしそれに……三橋と素敵なハプニングがあるかもしれねーからな!」

「お前それが狙いだろ!」

「なっ………んな事ねぇよ!」

「今更ごまかすな!」


はーっと溜め息をついて、とりあえず全員の反応を見ようと思い周りを見渡したら田島と三橋が勝手に2人だけで雪合戦を始めていた
他の部員達も阿部の言葉には顔をしかめているが、満更でもない様子で2人を見守っている
それにぼんやりと、ちょっと楽しそうだなと思っている自分も居るので


「………分かったよ、やろ」


総合的に判断して阿部の案を承諾する事にした
みんなの顔がたちまちぱぁっと笑顔になったのはすごく嬉しかったが、阿部の顔もやらしくぱぁっと笑顔になったのは何だかすごく殴りたい衝動を彷彿させる
それを必死で我慢して、花井は口を開いた


「でもよ阿部、チーム分けとかどーすんだ?くじかなんかあんのか?」

「とりあえず俺と三橋が同じチームって事は決まってっけど」

「何でだよ!」

「そこに三橋が居る限り」

「テメェ!」


花井の我慢は早くも限界を迎えそうだった



□ □ □



キレる花井をみんなで宥めて落ち着かせ、ようやくくじを作って引く事になった
しかし田島と三橋は2人でとっくに盛り上がっていて、くじで振り分けるよりそっちを収める事の方が大変だったりしたのだが
なんとか全員くじを引いて2つにチーム分けされた


の だ が


「…………なぁ、」

「何だよ」

「アイツの笑顔って……あんなに殺意沸くようなのだったっけ」

「………………」


花井と泉の先には―――三橋の隣でキラキラとした笑顔を浮かべながら雪玉を量産している阿部の姿があった

チーム分けの時、紙がティッシュしかなかったので
細くしたティッシュの先っぽが丸まってるか丸まってないかで分けるという至ってシンプルな、それでいて不正のしようがない方法を取ったのだが、


「ハハハ、見ろよ三橋。雪だるま☆」

「あ、阿部くん、スゴイ!」


それにも関わらず阿部は三橋の隣に居るのだ。


「くじには何の仕掛けもなかった筈なのに……アイツ………どんだけ……」

「まあ、阿部と同じチームになんなかっただけ良しとしよーぜ」

「……………?」


花井が首を傾げると泉は特に躊躇う事無くさらっと先が予想出来るような事を言ってのける
少し大きめな眼を"何か"で揺らめかせ―――そして、そこに阿部の姿だけを映して


「アイツの敵チームになれば何の遠慮も無く殺れるんだからな………」

「…………………」


―――字がおかしいぞ、泉


しかし花井はそれを言う事無く、むしろ今の発言を聞かなかった事にしてただただ雪玉を作り始めた
それから泉が石入りの雪玉を堂々と作っているのを見てしまったりもしたのだが
まぁ、見なかった事にした






「おーっし、始めるぞー」


その途端いつもの練習のような返事が白く染まっていつも以上に広く感じるグランドに響き渡る
右側の陣地に泉、沖、栄口、田島、花井
左側の陣地に巣山、西広、水谷、三橋
そして―――阿部
陰謀渦巻く雪合戦が、今始まろうとしていた


「よーい…………スタート!」


そう言った瞬間阿部の顔に雪玉がぶち当たり、主に泉を軸とした阿部潰しの陰謀は花井の始まりの合図と共にスタートした


「へばっぷっ!」

「今の声キモいよ阿部!」

「うるせぇクソレフト。キモくて構わないぜ、三橋を守れたんだからな………」

「ホントキモいよ阿部!」


そうこうしている間に雪玉はたくさん彼らに襲い掛かる
負けじと投げて反撃に出るがこちらチームに阿部が居るせいで雪玉が固く、当たると痛みがもの凄かった
冗談なんかではなくリアルに痛かった
だがそれでも阿部は体を張って三橋の前に立ち塞がり、守る
それを分かっているからこそ固い雪玉を投げ続ける―――主に泉

とばっちりをくらう巣山、西広、水谷にとっては冗談じゃないという状況だったので彼らは痛みの分だと言わんばかりに雪玉をたくさん投げる


―――これってどうやって勝敗決めんだろ


ものすごく大事な疑問を口に出せないままとりあえず3人は雪玉を投げた



□ □ □



「うわっ………!」


一方花井率いるチームもそれなりに苦戦していた
阿部に強い玉をばんばん投げてしまいたいが、
(固い玉は投げているけれど)
もし三橋に当たったらと思うとなかなか実行に移せない
その上、向こうも質より量と言いたいのかやたらと沢山投げてくる


―――これ、結構ピンチなんじゃ……


勝ち負けの判断が曖昧な中だが自分の属するチームの劣勢を栄口は本能的に感じとっていた
こちら側になにかにつけて凄い田島がいるとはいえ、向こう側の面子だって負けてはいない
(もちろんこちら側だって、花井とか泉とか沖とかすごいのが沢山いるのだけれど)


「!!栄口っ!危ないッ!!」

「え………」


ひどく焦った沖の声がして、我に帰った
ぼぅっとしてしまい気付かなかった

沢山の雪玉が 自分に迫ってきてるのを


―――もう避けられない!


目前に迫った雪玉からはもう逃げようがなく、せめて顔だけでも守ろうと手を顔の前でクロスさせる
そしてすぐに襲い掛かるであろう痛みに、目をつぶった時だった


「勇人くんッ!!」

「………………っ!」


思いきり突き飛ばされて、栄口の体は白い雪の中に倒れ込んだ
少し痛かったけれど倒れる前に聞いた声は栄口が無意識に恐れている状況をありありと想像させ、
それを否定したくって栄口は慌てて目を開けて起き上がった
そして―――目の前には、栄口の想像通りの光景が広がっていた


「…………ろ……ろか…………さん……」


震える唇がとてつもなく嫌だった
まさか、と思った事が現実になっていた
自分の前に立ち塞がって体を張って自分を雪玉から守った彼の姿
ああ、この人だけは、どんな時も守りたかったのに


「だ、大丈夫?勇人くん」

「………どうして……………」

「ちょっと通りかかったら……勇人くんが危なかったから………つい………」

「……………っ!」


そう言ってへへっ、と笑う呂佳の顔には、赤い筋が通っていた
鼻からつうっと伝ってぽたりと雪に落ちて、白を望まない形で鮮やかに彩る
白にその赤はひどく映えて、こんな状況で未だに雪玉は飛び交っているのに何故だかとても綺麗だと思った


「………呂佳さん……鼻が………」

「え?…ああ、当たっちゃったみたいだ」

「………………」


そして呂佳は照れたように笑って豪快に鼻血を拭う
しかしそれでも真っ赤な真っ赤な血はまだ鼻から流れてきていて、呂佳のその行為は無意味とも言えた



「おい栄口!来てっぞ!」

「!!」


泉の声に目線を呂佳の鼻から移すと、再び呂佳に迫り来る雪玉があった
危ない―――そう言うよりも早く、栄口の体は動いていた


「っ!!勇人くん!!!」

「―――っ!!」


ただ体が思うままに―――体を呂佳の前に躍らせて―――そして、

呂佳の頭目掛けて飛んできていた雪玉を手の平で受け止めた

一瞬、時が止まる

まるで栄口を中心になにもかもが凍り付いてしまったかのように
飛び交う雪玉でさえ、止まったように見えた
例外無く誰もが栄口に注目して、
止まった"ように"見えただけの雪玉も皆が動きを止めたものだから完全に止まってしまう
音さえ消えた白銀の世界
栄口はその時間違いなく世界の中心となっていて

世界の中心は、受け止めた雪玉を容赦なく握り潰した


グワッシャァ   ぼた ぼた ぼた

ただの雪へと帰したソレはそんな情けない音を立てて地面を覆う雪に完全に溶け込んでいく
雪を通り越して水となるものもあった
そう、まるでたった今流れ出した三橋の涙のように―――


「……………これ、投げたの誰?」

「「「……………………ッ!!」」」


深い深い笑みをたたえたその顔はまるで澄み切った青空をそのまま貼付けたかのような晴れやかさで、しかし見る者全てに何かを悟らせる


「言っとくけど、次また呂佳さんの顔に傷作ったら容赦しないから」

「………勇人くんっ………!」


ただそこに居る部外者、仲沢呂佳以外には

そしてそれを見たその場に居る者全員は、身をもって学習するのであった


「……………恋は盲目………」

「………どっちが?」







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