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□Melty kiss
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ピンポーン!
ピンポンピンポーン!
朝っぱらから鳴り響く玄関のチャイム。
きっと獄寺くんが迎えにきたんだろうな、なんて思いながら急いでネクタイを締めた。
「ツっくーん!早くしなさーい!」
「分かってるよー!」
階下からオレを呼ぶ母さんの声に応えながら、階段を駆け下りて玄関のドアを開けた。
しかし、そこにいたのはオレの予想とは違う人物。
「ツナさぁん!!ハッピーバレンタインですー!!」
「えぇ!ハル!?」
「おはようツナ君!」
「京子ちゃんまで――!?」
「今日はバレンタイデーですから!ツナさんにハルから愛のお届けですぅ!!」
「昨日二人で作ったの。ランボ君たちの分もあるからみんなで食べて」
「わぁ、ありがとう二人とも!」
そうか…今日は2月14日。
好きな人に想いを告白する日。
毎年、母さんからのチョコしかもらえないオレにとって、バレンタインなんてそれほど重大なイベントではなかったからすっかり忘れていた。
好きな人に想いを伝える日、か……
ヒバリさんはカッコいいからきっとチョコ、沢山貰うんだろうな。いや、でもヒバリさんにチョコを渡す勇気のある女子なんているのかな?
きっといつもの「咬み殺す」で全部片付けちゃいそう。
気になったオレは朝一番にこっそりヒバリさんの下駄箱を確認してみたけど、信じられないほどのチョコが詰め込まれていたんだ。その事実に余計もやもやした気持ちになっていた。いつもは恐がってるくせに、女子って不思議……
でも、やっぱりヒバリさんてモテるってことで、好きな人がモテるというのはとても複雑。
そんなことを悶々と考えている間に、1日が終わろうとしていた。
放課後が近づくにつれて教室、いや、学校中がそわそわしてるみたいだ。
ま!モテないオレには関係ないけどね!
自分で言って少し虚しくなっていると、廊下の方がざわめき立った。
何だろう?
自分の席からそちらに目を向けると、両手いっぱいにチョコを抱えた山本が教室に入ってくるのが見えた。
山本すご――っ!!
「うっせぇ!!近寄んじゃねー!!」
その山本の後から、ものすごい形相の獄寺くんが女子を威嚇しながら入ってきた。
相変わらずだな、獄寺くん。
「よぉ!ツナ!」
「10代目!!お疲れさまっス!」
「二人とも相変わらずすごいね」
「とんでもないです!!女子なんてうぜぇだけっスよ!!」
「せっかくくれるんだからもらっときゃいいのにな〜」
三人で話していても、廊下にはまだかなりの女子が二人にチョコを渡そうと群がっているみたいだ。
放課後部活のある山本はともかく、この後帰るだけの獄寺くんにはチョコを渡せる最後のチャンスだしな。獄寺くんが素直にチョコを受け取るとは思えないけど……
そう思いながら獄寺くんの顔を見たとき、廊下がそれまでと違う空気に包まれたのを感じた。
キャーキャーという女子特有の高い声。
そこに混じる、黄色い声とは異質のざわめき。
今までの楽しそうな喧騒とは全く違う、どう聞いてもそのざわめきは悲鳴交じりの恐怖。
一体何事!?
じっと廊下の様子を窺っていると、さっきまでの騒ぎが嘘のように静まり返った。
教室が緊張に包まれ、オレは山本と獄寺くんと顔を見合わせた。
すると、廊下からよく知っている声が微かに聞えてきた。
「僕の前で群れるからだよ」
え?まさか――……!?
オレは思わず席から立ち上がった。
ちょうどその瞬間教室に入ってきたのは、やっぱりそのまさかの人で……
「沢田綱吉、いる?」
「ヒバリさん!?ど、どうしたんですか?」
「君がいつまでたっても来ないから迎えにきたんだよ」
「……?今日って、何か約束してましたっけ?」
オレは小首をかしげた。
「……はぁ」
え?え?
なんでため息をつかれたのか分からず、オレはただただ困惑するばかり。
オロオロしていると、何かを諦めたようにヒバリさんは無言で踵を返し、そのまま教室を出て行ってしまった。
前々から思ってはいたけど、ヒバリさんて何考えてるのか全然分かんね――!!
それでもやっぱり放っておけなくて、気付くとオレはヒバリさんを追いかけて教室を飛び出していた。
廊下に出て辺りを見回したけど、すでにヒバリさんの姿はどこにもない。
どっちに行ったかな……少し考えてみても、他に思い当たる場所はない。
やっぱりあそこだろうと、応接室に向かって一目散に走り出した。