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こたつミカン
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「ツーくーん!日曜日だからっていつまで寝てるのー?」

階下から呼びかける母の声。
遠くで響いているように感じていた声が、階段を上る足音と共に近づいていた。
曖昧な意識の端で母の声を聞きながら、綱吉は布団の中で身じろぎ、瞼に沁みる光にうっすら目を開ける。

「さむ……っ」

カーテンの隙間から注ぐ光が、すでに太陽が高いことを示している。もぅ昼近いな、とぼんやり考えながら、布団の外の冷たい空気に白旗をあげ再び微睡む。

「ほらツっくん!ママ、ランボくんたちと買い物に行くからね!ちゃんと起きなさいよ!」

「ん―……」

「じゃぁ行ってくるわね!あ、それとツっくんにお客さんが来てるからリビングにお通ししたわよ〜!」

「んん――……」


……ん?


「はぁ!!??」

慌てて飛び起きると、そこにはもう奈々の姿はなく、閉まりかけのドアが静かに音を立てた。


キィ―…パタン……


それを先に言ってよ!と無言のドアに投げかけたが、もちろん返事はない。
急いで着替えを済ませ階段をかけ降りた。リビングのドアをそっと開けると、中から暖かい空気が流れ出す。その空気と一緒に届いた声は、意外な人物のものだった。

「やぁ、お邪魔してるよ」

「ヒバリさん!?」

そこにはコタツでくつろいでいる雲雀恭弥の姿。
我が家のコタツに、並盛最強の風紀委員が偉そうに座って緑茶を啜っている。
そのあまりの違和感に、綱吉は思わずまじまじとその姿を眺めてしまった。

「何?」

「いえ!別に!!」

何でもありません、と首を大きく左右に振って答える。
そして、一瞬迷ったが寒さには勝てず、雲雀が座るコタツに近づき向かいの席に腰を下ろした。
チビたちがいない家の中は驚くほど静かで、時計の音がやけに大きく感じる。しかし綱吉はそれを不快には感じていなかった。
向いには雲雀恭弥。家には二人だけ。穏やかな日曜日の午後。
緩やかに流れる時間に、心地よささえ感じていた。

「ヒバリさん、今日はちゃんと玄関から入ってくれたんですね」

「いや、いつも通り君の部屋の窓から入ったよ」

「えぇ!?」

「来てみたら君はまだ夢の中で、どうしようかと思ってしばらく君の寝顔を眺めていたよ」

「んな――!?そんな恥ずかしいことしないでください!!それに、俺の寝顔なんて面白くもなんともないでしょう?」

全く無防備な締まりのない寝顔を見られていたなんて。綱吉は羞恥から、柔らかい頬から耳にかけてのラインをリンゴの様に真っ赤にした。
その様子がとても可愛らしく、ついつい雲雀のイタズラ心が疼きだす。

「寝言で僕の名前を呼んでいたよ」

「えぇぇ!?本当ですか!!??」

「嘘だよ」

「んな――っ!!」

絶句している綱吉をよそに、雲雀はくすりと笑って続けた。

「大きな口を開けて涎たらして寝てた」

テーブルに肘をつき、意地悪そうに笑う雲雀。
まるで、小学生が好きな子をからかうかのような幼稚な言葉遊び。
ひどいですよヒバリさん、と頬を膨らませながら幼くあどけない顔で精一杯の抗議。
いつもは下がり気味の眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せてみせる。
拗ねるようなその姿が、逆に雲雀の加虐心を煽るのだ。

「ねぇ、君はいつもこんなにお寝坊さんなの?」

さすが遅刻常習犯だね、と笑われて綱吉は恥ずかしさを隠すように反論した。

「休みの日くらいいいじゃないですか」

頬を膨らませ目を逸らすその仕草の愛らしさに、雲雀の口元が自然と緩む。

「そうだね。でも、僕を待たせた罪は重いよ」

「え?……うわぁ――っ!!??」

言うと同時に、雲雀はコタツの中で綱吉の足首を掴んだ。
その瞬間、綱吉の視界が後転し後頭部を床に打ちつけゴツンと鈍い音を立てる。

「いっつ――……いきなり何するんですかヒバリさん!」

雲雀に足を引っ張られ後ろに引っくり返った綱吉は、衝撃に目を瞑る。
痛みに耐えるように、ぶつけた箇所をさすりながら抗議したが返事が返ってこない。
じんじんとした鈍い痛みが少しずつ和らぎ、起き上がる体制を整えようと目を開けるとそこに見えたのは、あるはずの天井ではなかった。
寝転んだまま見上げると、真上に雲雀の顔。
何事かとぼんやり見上げていると、雲雀は綱吉を後ろから抱き起こすように腕に抱えた。

「え?え?」

抱きかかえられた状態のままコタツに入ると、耳元でふう、という雲雀のどこか満足気な吐息。
背中に感じる温もりに、綱吉は後頭部の痛みなんてすっかり消えてしまっていた。

「あの……」

「ん?」

「あったかいですね」

「うん、そうだね……」



腕の中には君の笑顔。家には僕と君の二人だけ。穏やかな日曜日の午後。
緩やかに流れる時間は、とてもとても温かい。






-END-

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