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淡桜‐アワザクラ‐
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「だいぶあったかくなりましたね!」

そう言って、隣を歩く綱吉がふわりと微笑む。柔らかい笑顔はまるで日だまりのようで、雲雀もつられて口許が緩むのを感じた。
そうだね、と短く返された言葉は素っ気ないようでいて、声は相手を愛しむように穏やかで。
二人で歩く桜並木。
ひらひらと舞い散る花びらは、白く淡い雪のように景色を滲ませている。
揺れる桜の中で、桜より淡く優しい綱吉の存在を目を細めて見つめる雲雀。
綱吉は桜を見上げきょろきょろ。少し後ろをついて歩くその姿が、まるで母を追うひな鳥みたいで。
柔らかい栗色の髪を春風に揺らす、愛らしいひな鳥。
愛しくて愛しくて、ただそばにいる。それだけでこれほど温かく、こんなにも幸福だと感じたことはなかった。

「ねぇ……」

「……?何ですかヒバリさん?」

桜を追っていた視線を雲雀に向けて問う綱吉の前に、スッと差し出された右手。
雲雀の手のひらを見つめ、きょとんとしてしまう。
鈍い綱吉は意図が分からず、不思議そうに小首を傾げた。

「手、繋ごうか」

「え?……えぇぇ!?」

予想しなかった言葉に、その意味を理解するまでの反応が極端に鈍った綱吉は、途端に可愛い果物のように真っ赤になる。

「いいい、いいんですか!?」

「何?嫌なの?」

「そんなこと!全然嫌じゃないです!」

オーバーに手と首をブンブンと振っている綱吉を、早くしなよと促し、雲雀は差し出した右手をさらに少し近づけた。
嬉しさと恥ずかしさが綯い交ぜになった様子の綱吉は、恐る恐るそこに自分の小さな右手を乗せる。
……右手?

「…何のつもり?」

「え?あ…!すすすすいません!!」

あまりの緊張に右手を出してしまった綱吉。
握手の形に繋がれた手に雲雀はため息、綱吉は涙目。
しかし雲雀の声は呆れていても、綱吉のそういうところが可愛くもある、なんて思ってしまうのだから仕方ない。
雲雀は思わず笑んでしまうが、真っ赤になり俯いた綱吉はてっきり雲雀が怒ったものだと思い、自分の駄目さ加減に小さく震えていた。

「…しょうがない子だね」

「すみませ…っ!」

言いかけたとたん、握られた右手を離され、強引に左手を掴まれる。

「ほら、行くよ」

少し痛いくらいに引かれた手。決して離さないというように繋がれた手。
そこから、咲き誇る満開の桜の花のように溢れる気持ち。
心だけには収まらず、はらはらと零れて、それは二人の歩いた幸せの軌跡(あと)。









-END-

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