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□Bloody Love
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体中が痛くて、意識が朦朧としてる。
オレはどうしたんだっけ?
口の中、切れたのかな…錆びた鉄の味がする。
喉元にひんやりと冷たい感触。その無機質なものの圧迫感で呼吸が苦しくて、無意識に目尻に涙が溜まっていく。
応接室の壁に押さえ付けられ成す術もなく、オレは立っているのがやっとの状態。
「本当に、君はか弱い生き物だね」
息が触れるほどの距離で囁かれた声に、霞む意識を必死に靄から引き上げた。
定まらない視点を合わせてぼんやり見上げると、深い闇色の髪と瞳が揺れている。
「はぁ…はぁ…ヒバ…リ……さん…どうし…て」
「ワォ。まだ口が利けたんだね」
「っ…うぅ……あ…あぁ」
喉に押し当てられたトンファーに力が込められ、オレは声にならない声で喘いだ。
苦しいよヒバリさん。どうしてこんなこと……
「ヒ…バ……さ…やめっ」
「君、五月蠅いよ」
「んっ…!」
突然の出来事に、息苦しさでキツく閉じていた目を思わず見開いた。
「…っ…んんっ」
――チュッ…チュッ
「はっ…ん……」
――…チュクッ
「ふぁ……っう…ん」
咬み付くようなくちづけ。
五月蠅いと塞がれた唇が、今度は無理矢理開かれる。舌を絡められて、互いの唾液が深く交わる感覚に思考がとろけていくようだ。
甘い波に意識は流され、訳が分からなくなったオレはいつしか夢中でヒバリさんのキスに応えるように舌を絡ませていた。
カラン―…カラン―…ッ
金属が床とぶつかる乾いた音が、静かな応接室に不自然なほど響いた。それと同時に、喉元の冷たい圧迫感が消えて無機質な金属で冷えきっていた喉の皮膚が震えた。冷たくなった喉がまるで火傷みたいにじんじんする。
トンファーを離したヒバリさんの手がオレの体にそっと、恐る恐る、まるで確かめるかのように触れてきて反射的に身を竦めてしまった。
でも、その行為がどこか母親を探す小さな子供みたいで……こんなに酷いことをされてるのに、愛しささえ感じてる。
だって、ヒバリさんが本当は優しいってことをオレは知ってるんだ。
オレは握りしめていたこぶしから力を抜いて少し背伸びをし、ヒバリさんの背中に腕を回した。頑なこの人にどうすれば気持ちを伝えられるのか分からなくて、ただオレはヒバリさんを強く強く抱きしめた。
ねぇヒバリさん。
オレはどんなに殴られても、ヒバリさんが触れてくれるなら何度でも抱きしめるよ。
「ぁ…んん……ふ……っ」
「……はぁ……んっ」
抱き合うように壁に押さえつけられたままの、長い長いくちづけ。
初めは血の味がした。でも、今は信じられないほど甘い。
零れそうな唾液を嚥下して、互いの呼吸さえ飲み込むみたいに激しく。
上手く息ができない。
いつまで続くとも知れないキスにさすがに苦しくなってきて、背中に回した手をパタパタさせた。
するとそれに気付いてか、オレの腰に回された腕の力が緩められ、ヒバリさんの唇が名残惜しそうに透明な糸を引いて離れていく。
その様子がすごく恥ずかしくて、でも気にしているほどの余裕なんかなくて。
今のオレ、すごくだらしない顔してるんだろうな……
思い切り肺に空気を吸い込んでいると、ポタッと温かいものが頬に落ちてきた。呼吸を整えながら見上げたオレの目に飛び込んできたのは、信じられないヒバリさんの姿。
酸素の回ってない脳が見せている幻覚じゃないかと疑ってしまうほどだ。
「ヒバリさん!?」
オレ以上に驚いているような顔のヒバリさんの目から、ポロポロと涙が零れていた。
一体どうしたの!?ど、どうしよう!!??どうすれば――……っ!?
「あっあの!ヒバリ…さん……?」
おろおろするしか出来ないオレの頬を両手で包み込み、頬に落ちた雫を親指でそっと拭ってくれた。
どうして?
どうして今度はそんなに優しくするの?
チュッ――……
触れるだけのキスをするとそのまま抱きすくめられ、オレの肩に顔を埋めて頬を摺り寄せてくるヒバリさん。
本当に、一体そうしちゃったの!?
混乱した頭でぐるぐる考えていると、耳元で微かに空気が振動した。声というにはあまりに小さかったけど、オレの耳には確かに聞えた言葉。
『君のこと、嫌いじゃないよ……』
それを聞いてオレは思わず噴き出してしまった。
告白にはとても程遠い言葉……まったく、この人はどうしてこんなに不器用なんだろう。
本当、素直じゃないんだから。
仕方がないから、オレがヒバリさんの分まで素直になるしかないよね。だってヒバリさんの気持ち、分かっちゃったんだもん。
だからオレはヒバリさんをぎゅぅっとめいいっぱい抱きしめて、ヤダって言われても絶対に離さない。
「ヒバリさん。オレね、ヒバリさんのこと――……」
ねぇヒバリさん。
今日のところは譲ってあげるから、いつかきっと、ちゃんと気持ちを聞かせてね。
-END-