短編

□きっかけは涙
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部屋を出て静かに戸を閉める。
目の前にはふらふらと足が定まらない彼がいた。
たまに口を手に当てて一つ欠伸をする。
眠いにも関わらず彼はポケモンセンターからそっと外に出る。
その後ろをばれないようにつけると、前方から泣き声が聞こえてきた。

「……ひくっ……ぐす」

月明かりに照らされた彼の後ろ姿は丸くなっている。
真下の地面は少し湿っていた。
間違いない、彼は泣いている。
真後ろでそれを確認してしまった俺は彼を放っておけなくなり、声をかける事にした。

「……ピカチュウ」

「……っ!?」

びくんと跳ね上がる肩。
彼はゆっくりと振り返ると笑った。

「どぅしたの?オニゴーリ。寝てたんじゃ」

「あー……何か目が覚めて」

「そっか」

罰の悪そうな顔をすると、追及もせずに頷く彼。
しーんと沈黙が俺達を横切った。

「……お前こそ、寝ないのかよ?」

「ぅーん……何か眠れなくて」

落ち着かないんだよね。

明らかに無理をしている彼に胸が痛くなった。
笑っているのに泣いているみたい。
そりゃ先程まで泣いていたのだから、急に笑うなんて出来ないのかもしれない。
頬には涙の跡がくっきりと残っているのだから。

「なぁ、ピカチュウ」

「なに?」

「お前……辛いって思うの事「ないよ」

「えっ?」

「だからっ!どうして辛いと思うのさ!愛しのサトシと毎日居られるのに!……あははっ変なオニゴーリ」

笑い続ける彼に言葉だけ聞いているなら、騙されるんだとおもう。
それほど、笑顔で幸せそうに聞こえるから。

「……ぅそ……っだ」

「あはははっなぁに?オニゴーリ」

「嘘だろって言ったんだよっ!」

ピタッと彼の笑い声が止まった。
顔が歪み、目からは何かが滴り落ちる。
今度こそ彼は泣いていた。
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