頂き物 / 捧げ物

□研究所は今日も平和
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楽しそうに楼斗が持っている瓶。ああ、また変な物作ったんだね。楽しそう、他人から見たら本当に楽しそうだ。でも、その中身が劇薬以外の何物でもない事を知っている身としては笑っていられない。
あれだけ劇薬なのにどう作ったら後遺症がなくなるのかは疑問だけど、それをいい子に飲ませられてはたまらない。
一応、念のため、だ。采葉が近くにいれば叩き落すだろうし、岬ちゃんなら取り上げてくれるはず。僕は確認の為に楼斗の向かっているほうを見て、固まった。
「あ、ゆうやぁ、しゅぎょうおわったの〜」
「はい!でも、また佳乃さんに負けちゃいました。強くなってないのかも」
柚也、だいぶ疲れている。間違いなく、楼斗に言いくるめられて楼斗が持っている劇薬を飲む。せめて、尭雨とか夏とか来土とか溢木とかにして欲しかった!
「ゆうやはじゅうぶんつよいよ〜つかれてるでしょぉ、これえいようざいだよぉ」
「え?貰っていいんですか?」
「うん〜だってゆうやがんばってるm」
「柚也!それ飲んじゃダメー!!」
「え??」
多少距離はあったけど、僕が出せるトップスピードで楼斗が柚也に渡そうとしていた劇薬を奪い取る。楼斗が舌打ちした気がしたけど、そんな事を気にしている暇はない。
「明輝、どうしたんd」
「楼斗!こんな危ないものを柚也に渡すなんて、何のつもりなの!!」
「え〜いいでしょ〜こうかはみていだけどぉつかれをよくとれるはずだよぉ」
「明輝?それ、栄養剤って」
「柚也、疲れてるとこ悪いけど岬ちゃん呼んで来て!今すぐに!」
「え、ああ、分かった」
ごめんね柚也!僕はそう思ってすぐに頭を楼斗のことに切り替える。
ころころと笑っているところを見ると飲むのは誰でもいいみたいだ。これを飲むのはすごく怖いけど、また同じものが作られた時、対応できないと困る。そして相手が楼斗なら、作るなと言っても意味がない。作るなと言えば、嬉々として作るだろう。前の薬の改良版。そんな物を作って欲しくないけど、今僕が飲めば、少なくともこれの改良版が作られた時、僕は対応できる。
「……楼斗、これは、何?」
「しんやくだよ〜こうかはわかんないの〜」
「いつ効果が出るかも?」
「うん」
どうしようね〜。悪気も悪意も一切ない。ただの好奇心。分かってる。分かっているんだけど、いざやられると腹が立つ。とりあえず僕は楼斗を殴った。「いた〜い」とか言ってたけど、知るか。
「めいき〜どこいくの〜?」
「部屋に戻って様子見るの!楼斗はいいから、すぐに薬の効果を消せるものを作ってよ!君の薬はたち悪いんだよ!!」
楼斗は、一瞬首を傾げてから、すぐに自分の部屋に戻っていった。部屋……と言うかラボか。どこで日常生活をしているのか、なんて考えない。どうせ研究以外は岬ちゃんの部屋にいるんだろう。
僕は余計な事を考えて、部屋に戻る。
戻ってすぐにベッドにダイブした。
何これ。気持ち悪いなんて生ぬるい。苦しい?まあ、息が出来にくいから苦しんだろう。頭がぐらぐらする。本当に何なのこれ。いったい何を調合すればこんな変な薬が作れるの。
「少し、眠れば良くなる……良くなって欲しいなぁ。今日は華月が遊びに来て、くれる、んだ、から」
ふと、目が覚めた。なんだか眠る前よりも息苦しい。面倒だと思いながら、服を脱ごうとして、気づいた違和感。
僕が着るのには、大きすぎる服。確かぴったり合う服を着ていたはず。それ以前に采葉が服のサイズを間違うはずはない。でも、なぜか手が袖から出ていない。
嫌な予感がした。僕は恐る恐る鏡を見て、
「ろうとのばかぁ!!」
最悪だ。これの改良版は絶対にない。鏡の中の僕の見た目は5歳くらいの子供になっていた。声だって、いつもよりも幼い。
自分で実験体になったんだから、これは妥協しても、この研究所には子供に物凄く優しくない。いたるところに階段だらけ。下手をすれば大怪我じゃ済まされない、ポケモンたちの喧嘩。この状態の僕は采葉たちのところへ行くにも至難の業だ。
その時、コンコンとドアからノック音がした。
「明輝、起きてる?楼斗の薬飲んだって聞いたけど、大丈夫?」
「だいじょうぶじゃないよ!こうちゃん!」
「え?……ごめんね」
ドアから入ってきた岬は一瞬固まったけど、すぐに正気に戻って僕を抱き上げた。さすがは、付き合いが長いだけはある。こんな異常事態は慣れっこだろう。岬は僕を抱き上げたままリビングに向かう。
「かづきは?」
「もう少しで来るって。しばらくは華月に遊んでもらうの?」
華月に遊んでもらえるなら嬉しいけど、あいにく今の僕じゃ親友とはいえ気づかれない可能性のほうが高い。でも、もしかしたらすぐに現実を受け入れてくれるかもしれないし。そしたら僕的には美味しいけど、華月に迷惑がかかる。
「きっとわかんないよ……」
「そのときはちゃんと僕が説明するよ。ああ、おやつは何がいいかな?」
「しゅーくりーむ!」
「岬?明輝はどうし、た!?」
「あやは!」
岬の声が聞こえたからだろう。リビングから采葉が顔を出して、固まる。その様子を見る限りでは、楼斗がまた酷い薬を作った事を知っていたようだけど、これは予想してなかったみたいだ。
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