頂き物 / 捧げ物

□甘い日常
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「クックルくーん。あーそーぼー」

間の抜けたようなケロロの声がラボに響く。地球に来てから聞くようになった甘さを含んだこの声が、クルルはとても気に入っている。ケロン星に居た頃には聞くことの出来なかったこの声が。
ケロン星にいる頃も万人から見ればケロロは今も昔も変わっていないように見えるだろう。

しかし、クルルは知っている。
ケロロが感情を押し殺していた事も、泣くことすら忘れてしまった事も。
ケロロの心から嬉しいという明るい声を地球という侵略先の惑星でようやく聞くことが出来た。口にも表情にも出すことはないが、とても嬉しい事だった。

いつまでたっても返事をしないクルルにしびれを切らせているのかケロロは「聞いてんの?!」と騒ぎ立てている。背中にあたる声に無意識に口が弧を描いているのが分かる。

ああ、もう甘い、甘い―――――。

「クックー…ちゃんと聞こえてるぜぇ、たいちょー」
「ちょっ…聞こえてんなら無視すんなっつーの!」
「クーックックック…」

くるり、と振り返ればプンプンとまるで子供のように怒りを露わにしているケロロが視界に入ってくる。
心からの感情だ。作ったものでも、無理にしている感情ではない、彼の素の感情。
当たり前なのにとても眩しい。輝いてさえ見えるのはきっと間違いではない。
基本的に他人に関心のないクルルだが、このへっぽこ隊長に対してだけは別だ。彼の素がこんなにも嬉しく感じるのは愛しい以外に他ならないからだろう。
(俺様も随分と溺れちまったもんだ)

「柄じゃねぇのになぁ…」
「はぁ?」

彼が笑う、彼が嬉しそうに喋る。
当たり前な日常
そんな今の日常が、幸せ

「愛してるぜぇ、隊長」

貴方のその甘い声が、永遠になりますように。


【甘い日常】


end
 

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