短編
□素直じゃない君
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「……くぅ!」
湖の辺で居眠りをしようとしていると、遠くから息を切らして走ってくる夕輝が見えた。
寝ていた体を起こし、夕輝を改めてみると可愛い頬を膨らまして怒っていた。
「……どうしたんです?ゆう」
「どうしたじゃないよっ!」
ムスッとした顔で空緋の隣に座ると夕輝は言った。
その後もブツブツと呟くように声に出している夕輝を見て空緋は一つの事を思い出した。
そういえば…つい昨日、後輩の鳥たちに夕輝の事について聞かれましたっけ。
もしも、その後彼等が夕輝に何か言ったのなら……。
そこまで考えて空緋は行動に出る事にした。
「可愛いって言いましたよ」
「……ブツブツ…………へっ?」
ニコリと笑い夕輝の方を見ると、そこには間抜けな顔をして固まった夕輝がいた。
「ゆう?」
声をかけて見るが返事はなく、どうしようかと悩んでいるとみるみるうちに夕輝の頬が赤くなっていくのが分かった。
どうやら照れているらしい。
それを嬉気と見たのか、空緋はまたニコリと笑い、やっぱり可愛いですと呟いた。
「……っ!?か、可愛くなんか」
「……ふふ」
嬉しそうに笑う空緋を視界に入れながら、どんどん顔を赤くしていく夕輝。
普段の彼を知っているものがこの場にいたら見間違いでは無いか何度も疑い目を擦るだろう。
それ程、貴重なそれなのだが、仕掛けた本人にとっては日常なのか空緋は今だに笑っていた。
「……ゆう」
「…………な、何っ?」
ぽつりと呟かれた自分の名前。
その声を瞬時に拾って返す。
すると、空緋はおいでとでも言うように、夕輝に向かって手招きをした。
首を傾げながらも怖ず怖ずと近付いてくる夕輝に手を伸ばすとギュッと抱きしめる。
腕の中から何か聞こえた気がしたけど、幸せな気分だったので知らない振りをした。
「…………くぅ」
「んっ?どうしました?」
「……す」
「す?」
「……すっ………やっぱ、何でもない!!」
ぎゅうと力を入れてくる夕輝にクスクスと笑う空緋。
笑わないでよとも言われたが余りに可愛いそれに我慢など出来る筈もなく。
顔を埋めている夕輝の頬に上からキスを落とした。