短編

□カレーライス
1ページ/4ページ


ぎゅっと握られた手。
もう冬だというのに暖かく感じる。
繋いだ手から心音が伝わる。
ドキドキしているみたい。
口に出さなくても分かったそれに僕はクスリと小さく笑った。

「なっなんで、笑うんだよ!」

「だって……あはは」

クスクスと突然笑いだした僕に彼は不満げに頬を膨らませる。
幼い子供みたいなその行動が何故か可愛らしく見えた。
ムスッとした顔をしながらも手は握られたまま。
何だか矛盾してるように感じる。

「笑うとこなんてないだろ!」

「あるよ。誘う勇気はあるのに、手繋いでるだけで緊張してるんだもん」

そう言うと彼は真っ赤に頬を染めた。
どうやら、勢いだったらしい。
普段見れないそれは新鮮味を感じさせる。

そういえば、誰かが彼の事をツンデレと称していた気がする。
他人事ではないそれに僕は苦笑いした覚えがある。
あれはシンオウに来て彼がサトシにゲットされてからだった。
その時は確か誰かと喧嘩していて謝りたいのに謝れないみたいな状態だった。
で、結局謝っても素直な謝りじゃなかったため、周りから弄られていた。

そして彼はツンデレと呼ばれるように……なった気がする。

まっどっちにしても素直じゃないって事だよね。
僕は思考をそこで止めて、今だに赤くなっている彼を見た。

そこから視線だけ外し、街を何気なく見渡すと僕は重大な事に気付いた。

「あのさぁ。ブイゼル」

「……なんだよ?」

「お店過ぎてない?」

「…………はっ?」

さっと視線を彼に戻し、そう告げると一瞬考えるように固まった。
沈黙が続く。僕は黙って彼の反応を待つとはっと彼が後ろを向き叫んだ。

「過ぎてんじゃねぇかぁー!」

その際も手はぎゅっと握られたままだった。
叫ぶのに夢中になっている彼はどうやら力が入ってる事にも気付いてないようだ。

「こうしちゃいれねぇ。ピカチュウ戻るぞ!」

「戻るって……日が暮れて来てるのに!」

「だから、急いで戻るんじゃねぇか」

噛み合っているようないないような会話をする僕達。
周りの車の音や風の音は一切入ってこない。

「よし!急がねぇと時間がねぇな」

「うん!みんな待ってるしね」

繋いだ手をどちらともなく繋ぎ直すと、くるっと後ろに振り返り走る。
日没まで時間がない。
早く帰らなければ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ