メモ

□夏の怪奇現象?
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季節は初夏。沢山の虫たちが活動始める。冬に眠っていたものたちは一斉に起き、働く。そんな季節の筈なのに、どうやらまだ眠っていたい虫もいるようで。僕の目の前の彼も例外ではないようだ。

「あぁーだるい」

ソファに寝そべりながら、ひたすら愚痴を零しているのは黄色い鼠。
彼の名は、ピカチュウと言って、此処の住民ではないのだが、訳あって此処にいる。
だが、それは彼だけではない。
各言う僕も此処の住民ではないし、僕たち以外の此処に住んでいる人たちも正確には、此処の住民ではない。
みんな別の所から集められた人たちだ。

まあ、人言っても、元が人じゃない奴もいる。例えば、目の前にいる彼はポケモンという生き物の一匹に過ぎないし、僕自身も人間とは程遠いピンク色した生き物だ。

他にも、彼と同じポケモンたちや狐や猿、ゴリラ、狼とかがいる。
普通は言葉の通じない僕たちだけど、此処に来て擬人化というものを覚えてから、人のなりをしているため、他の人たちとも言葉が通じるようになった。

そのおかげか、沢山の人たちと親密になることができた。
今では、同じ世界の人より仲の良い者もいる。
そして、僕の場合は、その存在が彼だったりするのだが。
彼にとっては僕ではないのかもしれない。
「…何言ってんの?」

ソファで寝そべっていた筈の彼はいつの間にか、礼儀正しくソファの上で正座していた。
視線は真っすぐ僕を見ている。

「えっ?何?」

突然の問い掛けに意味が分からず首を傾げると彼はくすりと笑ってこう言った。

「声に出てた」

頬が熱くなった気がした。
全身の熱が集まってくるような変な感覚。目の前の彼はまだ笑っている。
きっと僕の顔がよっぽど赤くて可笑しいのだろう。

「あははははは!気づこうよ。ホントに」「うっうるさい!!」

なんだか悔しくて必死に抗議をしようと少し前に出て見るが、彼は眼中になしとでも言うように腹を抱えて笑い転げている。
挙げ句の果てにソファを叩いて息を切らしている。
正直、面白くなかった。
悔しいし、なんだかムカつく。
だからなのか、僕はその後自分でも驚くような行動をとった。

「……ピカチュウ」
「あはははは!……んっ?何?」

笑い過ぎて涙目になっている彼に近づくと僕は彼の腕を掴んだ。

「カービィ?」
キョトンとする彼を無視して、力強くソファに体ごと押し倒す僕。
下には目が点と化した彼がいる。
形勢逆転まさにそう思った。

「……どうしたの?」
「ねぇ。ピカチュウ」

明らかに様子が可笑しいと思ったのか彼は笑うのを止めて、真面目に聞いてくる。
けれども、そんな言葉は無意味に過ぎず、僕はそれを無視して静かに口を開いた。

「君の一番は誰?」

冷めたような冷たい声。
本当に僕の声なのだろうか。

その場の空気が凍った。
彼の肩が震えてるようにも見える。
あぁ、僕は今何を言ったの?
自分が自分じゃないような気がした。

「ねぇ。誰なの?」

尚も問い掛けを続ける僕は一体誰?
悪魔は彼を蝕んでいく。
そして僕は僕じゃなくなった。

「答えなよっ!!」

怒鳴り散らすように罵声を浴びさせる。
冷笑を浮かべながら、悪魔は更に追い撃ちをかけていく。

「何で答えないの?僕が嫌い?」
「……ちがっ」

悪魔は答えない彼に苛々していた。
僕はそれを人事のように見ているだけ。
まるで別の関係ない事だとでも言うように。

彼は泣いていた。
何故かは悪魔には分からない。
そして、僕にも。

「…違うよ」

相変わらず冷笑を浮かべる悪魔の目に写ったのは、泣きながらも否定をする彼の姿だった。

「僕は…僕が一番大切なのは」
「カービィだよ」

えっ?
悪魔が一瞬揺らいだ。
僕は驚き目を見開いた。
目の前にいる彼は真っ赤に染まっていた。

「…真っ赤。ピカチュウ、顔真っ赤だよ?」
「……わっ分かってるっ!」

顔を背ける彼に自然と笑みが出た。
その笑みは僕の笑みだった。
どうやら、悪魔は消えたみたいだ。
突然、出てきたそれはなんだったのだろうか。
よく分からなかったけど、今はもう気にしない事にする。
だって彼の本音が聞けたから。

「あはは!ピカチュウ可愛い!!」
「なっ!?可愛くない!」

二人で笑いながら、僕は彼の上からそっと体を退かすと、彼に手を差し延べる。

「ほら、ピカチュウ」
「あ、ありがと…」

恐る恐る伸びてきた手を優しく掴み起き上がらせる。
今だに真っ赤な彼を横目に見ながら、僕は隣に座った。

「はぁ。やっぱ、働かなくていいや」
「はぁ!?働けって言ったじゃん」
「だって、働いたら…ピカチュウとの時間も減っちゃうし」
「……っ!?バ、バカじゃないの!?」
既に真っ赤なのに更に赤くなる彼。
それを見て笑う僕。
その日、僕たちは時間を忘れて笑いあった。
暫くして夕食のために呼びにきたロイやマルスに変な顔をされたけど、僕等は顔を見合わせてまた笑った。

知りたくない事も知りたい事も知っちゃった夏だったけど、結果には良しとしたいな。


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