メモ

□人魚姫
1ページ/1ページ



いい?人間に恋しちゃだめよ

どうして?

してしまったら私達は

泡となって消えてしまうから。



人魚姫 第一話



この世には大きくて分けて二つの世界がある。
陸に住むものたちと海に住むものたち。
陸に住む……人間という生き物は、海に住む僕達をこう呼んだ。
人魚と。

それは僕達の姿を初めて見た人間が付けたものらしい。
人間におびれが付いていてまるで魚のように見えたからとか。

全く別世界に住む彼等にとって、僕達はとても興味深い存在であるんだと思った。
けれども、僕達はそんな人間を嫌う。
鬼門とさえ思う。

人間は僕達、海の住民に冷たい生き物だから。
居るのか分からない存在に気をつかうことなんてない。
強欲。それが人間。

だから、僕達は幼いうちにみっちりと教え込まれる。

人間は危険だと。
近づいてはならない存在だと。
幸せになりたいのなら。

勿論、僕も幼い頃にそう学んだ。
というか、学ばされた。

でも、どんなに学んでも、人間が危険なんて思えなかった。


キラキラとした装飾品を手に持ち、もの思いに耽る。
こんな些細な時間が僕は一番好き。
賑やかな毎日は正直、疲れるし、肩が凝ってしまう。
まあ、僕の場合は特別だから仕方ないのだけれども。

「……姫ー!こんな所にいたのですかぁあああ!!」
「あれ?リンク」

うっとりと首飾りを眺めていると、後方から聞き覚えのある声がした。
息を切らせ泳いでくる彼……リンクに若干悪いと思いながらも僕は顔だけそちらに向けた。

「どうしたの?」
「どうしたの?じゃ……ありませんっ!貴方は自分が何なのか分かってるのですか!!」

訂正され怒鳴られる。
そして説教。
あぁ、もううんざりだ。

首根っこを掴むような勢いでまくし立てるリンクに僕は小さく溜息をつく。

「……分かってるよ」
「分かってませんっ!だいたい貴方は―」

始まった長い説教。
聞く耳なんて始めからない。
でも、聞いてる振りをする。
たまに頷き、相槌を打つ。
そうでもしないと、許してもらえないから。

彼、リンクは僕の教育係みたいなものだ。
幼い頃から一緒にいて、どんな時も僕の側にいてくれる。

寂しいと思った時も
悲しいと思った時も
嬉しいと思った時も

隣にいて分かち合ってくれた。
それはきっと、彼の性分的なものも含まれてるのではないかと思う。
ただ、仕事をこなすのなら、友達になって欲しいと言った僕を突き放す筈だし。
なにより、ここまでする必要なんてないのだから。

確かに僕の身分は、姫である。
でも、第六とかそんなとこ。
末っ子として生まれた僕は姫でありながら、お転婆で落ち着きもない。

あったら、こんな人間の船に宝探しなんてこないし。
いつ沈没したのか分からないけど、人間の事を知るには調度よかったから、暇さえあればこうして来る。
本当は暇なんてないのだけれども。

「―分かりました?何度も言いますが、気をつけて下さい。特に人間には」
「…………分かったよ」

長すぎる話が終わりを向かえ、一言付け足すリンク。
これはいつも説教した後に僕にいう言葉だ。
きっと、彼は心配しているんだと思う。
僕がいつも船にいることを。

「はぁ。まあ、分かったならいいです」

ほらっ溜息を付く。
そんなにこれはいけない事?

「……で、何を見つけたんですか?」
「えと、ねぇ……」

お互いに知らない振り。
リンクは僕の気持ちを。
僕はリンクの本心を。
知らない振りをすることで守れるなら、守りたい。

いつものように尋ねてくる彼を見て、そう思った。
手に持っていた首飾りを見せると、彼は綺麗ですねと笑う。
その笑顔に偽りなんてない。

「人間の女の人がしていた物ですかね?」「じゃないかなぁ」

たわいもない会話。
時々、リンクの敬語が柔らかくなるけど、僕はその方が嬉しいから気にしない。
堅苦しいのは嫌い。
年間行事も月の行事も。

無くなってしまえばいいのに。

「それ、どうするんですか?」
「うーん……持って帰ろっかなぁ」

リンクの問いに首を傾げ悩む振り。
だって、本当は決めてるから。
ちらっと横目で彼を見ると、諦めたように溜息を付いていた。

「仕方ないですね」

今回だけですよっと人差し指を口に充てる。
優しい彼に僕は心から笑った。

「ありがとう!リンク」

彼は僕の笑顔を確認すると、そっと手を差し延べくる。
どうやら、時間のようだ。
僕はその手を取るとそっと、船から浮上した。


「おそいっ!もう何処行ってたんですか?」

急いで帰宅すると腰に両手を充てて怒る王妃が見えた。
彼女は僕の母親。
故に一番、偉い人魚様である。
そして、怒ると怖い……。

「すいません。ゼルダ様」
「……ごめんなさい」
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ