置場

□このキモチに名前を
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君を見てると、何だかよく分からない気分になる。
例えるなら雲のようなふわふわとした感じで。
春の陽気のようなポカポカとした暖かさがそれに加わるんだ。
そうポツリとウレレは呟いた。
「…ふわふわにポカポカでありますか?」
いつの間にか設置されたコタツに向かい合って座りながら、首を傾げる。
その手には、オレンジの果物。
コタツの真ん中に置かれた編み目状の皿から取ってきたものだ。
すでに緑の両手は軽くオレンジ色に染まっていた。

ウレレがこの部屋、軍曹ルームを訪れたのはこれで二回目だ。
以前は面白い侵略作戦が浮かび、試したい気持ちでこの部屋を訪れた。
案の定、部屋の主であるケロロは喜んで引き受けてくれて。
そのあまりの素直に頬が緩むのを感じた。
作戦は失敗したようだが、ウレレは別に気にしてなどなかった。
また、彼に会える。
不思議とそんな感情が湧いてきていたから。
思えば、この時には分からない気持ちがぐるぐると脳内を廻っていた気がする。
「うん。何かな?これ」
(分からないんだ。
君なら分かるかもしれない。
抽象的な言葉だったけど、君なら)
「…ふわふわ。ポカポカ」
ジーと見つめてくるウレレを残し、ケロロはゆっくり考える。
と、視線を突然合わせ
「一つ、心当たりがあるであります…」
あまり大きな声とも言えない声で言った。
「…心当たり?」
疑問符を付け聞くと、軽く頷かれる。
「ぎ、ぎろろが夏美殿に感じたり、その夏美殿がサブロー殿に感じたりするものだと…タブンでありますが、おなじ」
だと思うであります。
控えめ呟かれた言葉。
簡単に解釈してみれば…つまり、これは。
「"こい"?」
辿り着いた答えを口にすると、軽く頷かれた。
(そっか。これが"恋")
ストンと腑に落ちた気がする。
気がするのは、"恋"などしたような覚えがないから。
売れっ子侵略者であるウレレは引っ張り凧で誰かに現を抜かしている暇などある筈もない。
スケジュールはぎっしりで長くその塲に留まることなど有り得ないのだから。
そんな自分がだ。
空いた時間をわざわざ削ってケロロに会いにくる。
新しい侵略作戦の成果を知りたい――なんて誰もが納得するような確かな理由を持って。
だが実際、蓋を開けたらどうだ。
ただ…ケロロが気に入っていた、しかも、恋愛感情を抱いていたというではないか。
(だから、こんなにも…)
君に会いたくなるのか。
「…ウレレ?」
咄嗟に名を呼ばれ、視線を合わせると眉間を寄せていた。
どうやら中々、返事が返らないことに心配になっていたようだった。
「聞いて欲しいことがあるんだ」
伝えたい、この気持ち。
さっきみたいな支離滅裂じゃなくて。
君に"恋"をしてるんだって事を。
ちょっと先の未来のケロロの表情を想像しながら、ウレレは笑って話を切り出した。

数分後、ケロロの表情が思った以上の完熟トマトに染まり、それに伝染したように同じく頬を染めたのは、二人だけの秘密。


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