置場

□エイプリルフール禁止令
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その日俺は珍しく何事もなく終わった先日のエイプリルフールが気になり何気なく奴の部屋を訪れた。
部屋の中に入ると何故か涙目のケロロと、これまた二度と見る事は到底無理であろうと思われる尋常ではない汗をかいたクルルが向かい合わせで座ってる。
(な、なんだコレは?!)
呆然と立ち尽くしていると、気付いたクルルが眉を潜めてコチラを見た。
「…センパイ」
「クルル。コレは何があっ」
「聞かないでくれませんかネェ?」
相当参っているのかいつもの嫌な笑みも、からかう気力もない事が一目で分かる。
「…そんなに重要なのか?」
「アンタにはわかンねェよ」
すかさず返される言葉に多少いらついたが、返す言葉も態度も浮かばず結局無言を貫く。
すると、話すつもりなどないと言っていたクルルが独り言と称し呟き始めた。

事の発端は言うまでもなもなく昨日のエイプリルフールらしい。
普段からかなりの捻くれ者であるクルルは、ほんの遊び心と好奇心で隊長であるケロロを騙してやろうと考えた。
早朝8時。
平日最後の日の金曜日は、相も変わらず日向家はそこに住む者たちはそれぞれの学校と会社に行っている。
そして夕方頃まで戻らない。
クルルはそんな当たり前の日常を利用し、ケロロだけにエイプリルフールを仕掛ける事にした。
掃除、洗濯、風呂掃除…e.t.c
それらを行いやっとこさ自分の時間とウキウキ気分で帰ってきたケロロをクルルは、軍曹ルームで出迎えた。
手元にはパソコンを持たず手ぶらと云った状態で。
『クルル? どしたの?』
怪訝な顔をして問うてくるケロロに急に真面目な表情をつくると静かに口を開いた。
『たいちょう』
『なぁに?』
『…俺、アンタのコト嫌いです』
意を決してそう言うと目の前の隊長が目を丸くした。
それに追い撃ちをかけるように続ける。
『アンタのコト大嫌いです』
『…そっか』
目に見えて萎んでいく様子に流石のクルルもこの嘘は、まずかったと漸く気付いた。『たいちょ…っ』
『ゴメンネ、クルル。今まで気付かなくてゴメン』
時既に遅しとは、まさにこの事だろう。
溢れ出る涙を抑えきれないのかケロロの顔は、どんどんグシャグシャになっていく。『ふぇ…クルルッ…ごめ』
『たいちょう!!』
何でアンタが謝るんだ、自分勝手に思いケロロへと手を伸ばすがその手は届くことはなかった。
触れる瞬間に後退して部屋を後にしたからだ。
残されたクルルには最後のケロロの表情が脳にしっかりと記憶された。

「それで、貴様はどうしたんだ?」
「…独り言だと言ったじゃないですか」
あくまでも言い切るクルルに、もう怒りを通りこして呆れしか湧いてこない。
いや、そもそも何故怒りが湧いてきていたんだ?
確かに話を聞く限りではクルルだけが悪い。ケロロに非は見当たらない。
寧ろ可哀相な被害者だ。
認めたつもりなど更々ないが、二人は公認の仲だ。
なのに、ケロロはこうして泣かされた。
(…そういう事か)
不意に答えと思われるものに打ち当たった。分かればどうって事はない。
後は目の前の若者にしらしめてやるだけ。
「クルル」
「…なんすか?」
あたかも不機嫌ですと言った口調と態度だ。それにニヤリと笑い、爆弾を投下した。「貴様がナニをその後したのかは、あえて問わん。だがな…」
「次、このような事があったら"俺たち"がタダでは済まさん。覚えておけ」
気迫を込めて忠告すると、クルルはその意味を察したのか罰の悪そうな顔をする。
そんなクルルに俺は敢えて何も言わずに、部屋を去ろうと扉に向かった。背後で微かに涙声が聞こえてくる。
「…く、るる」
「たいちょ。その…悪かった」
「大…丈夫。"エイプリルフール"だって言っ…て、くれたじゃん」
「でも…もうこんな"エイプリルフール"はイヤだろ?」
「うん」
チラッと後ろを見ると仲直りしたのか抱き合う二人が見える。
何処となくクルルのが強く抱きしめているように見えるのは気のせいではないだろう。
そんな二人を見ながら俺は来年からは、エイプリルフールが無くなるなと予知するのだった。


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