財前ドキサバ
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「日向」
「あ、財前君」
探索が終わり、水汲みをしていたら財前君がやって来た。
「探索おつかれさま」
「おん、おつかれ。今日は部長と謙也さんと行ったんやってな」
「うん。2人とも優しくて楽しかったよ」
「へー」
喉が乾いていたのか、水を汲むなり飲み始める財前君。財前君は遠くまで探索してたもんね。なんだか今日1日話していないだけなのに、久しぶりに話した気がする。
『早くから攻めた方がええよ』
ふと、忍足さんから言われた言葉が頭に浮かんできた。…いやいや、まさかね。まだ出会ったばかりで財前君のことよく知らないし、かっこいいとは思うけどこれが恋だなんて…言わないんじゃないかな。でも、財前君に近づきたいと思っている自分がいるのも本当で、忍足さんに言われても否定は出来なかった。あー、忍足さん!余計なこと言わないでよー!
「あのさ、財前君」
「なんや」
「今日は一緒に探索できなかったけど、明日は一緒に行かない?」
いつも財前君は『ええよ』って言ってくれるから、その返事に甘えてまた誘ってみた。けれど、財前君の返事はいつもと違うものだった。
「…2人と行ったらええんちゃう?」
「え?」
「楽しかったんやろ?そしたら別に俺と行く必要ないやん」
「そ、れは…」
確かに、今日の探索も楽しかった。不満なんて何も無かった。けど私は、また財前君と一緒に行きたいって思ったから誘ったのに…。財前君は、もう私と行きたくないのかな。もう一緒に行ってくれないのかな。
「あー、財前とねーちゃん!」
呼ばれた方を向くと、大きく手を振りながら金ちゃんが走ってきた。笑顔で手を振り返したいのに、なんだかうまく笑えない。
「あり?ねーちゃん、どないしたん?泣きそうな顔してるで。財前にいじめられたんか?」
「え…」
慌てて目を触ると、冷たいものが触れた。まずい。こんなところで泣きたくない。
「ごめん、私行くね」
「あっ、ねーちゃん!」
金ちゃんが呼び止めてくれたけど、このままだと本当に泣いてしまいそうだったから振り向かずに走った。なんで、私は泣きそうなの?財前君に突き放されたから?でもそしたら他の人と探索に行けばいいだけで、泣くことなんてないのに…。財前君じゃなきゃ嫌だなんて、わがままなこと思ってるのかな。
ーードンッ…
「あ、ごめんなさい。ちゃんと前見てなくて…」
「いや、こっちこそよそ見してて……って、日向さん?」
誰かにぶつかって急いで顔をあげたら、そこにいたのは白石さんだった。隣には忍足さんもいる。
「おー、日向かぁ。そんなに慌ててどないしたん?」
忍足さんが笑いかけてくれる。その笑顔を見た瞬間、我慢なんて出来なくなった。
「うっ…忍足さん……っ、白石さん…」
「なっ、ほんまどないしたんや!し、白石どないしよう!?」
「お前が慌ててどうすんねん。日向さん、大丈夫か?何があったんや」
白石さんが視線を合わせて優しく話しかけてくれる。説明したいけど、私も自分で何が起きてるのか分からなくてうまく伝えられない。ただただ涙が溢れてきて、そのまましゃがみこんでしまった。
「ねーちゃん!あ、白石と謙也も!」
金ちゃんの声が聞こえる。ここまで追いかけてきてくれたの?
「ねーちゃん、泣いてるやん…。やっぱり財前にいじめられたんやな!いくら財前でも、ねーちゃん泣かせるなんて許さへんで!」
「は?財前?金ちゃん、何があったんや?」
忍足さんが金ちゃんに尋ねる。涙をぬぐって顔を上げるとそこには白石さんの顔があって、視線が合うと大丈夫とでもいうように微笑んでくれた。
「ねーちゃん、さっきまで財前と一緒に居ったんや。せやから財前にいじめられたんやないかって…。大丈夫か、ねーちゃん?」
金ちゃんがしゃがんで私の頭を撫でてくれた。言葉が出ない代わりに、うんうんと頷くと、少しホッとしたような表情をしてくれた。年下の男の子に心配されるだなんて、なんだか恥ずかしい。
「謙也、日向さん頼むわ。俺は財前のとこ行ってくる。金ちゃんはどうする?」
「わいはねーちゃんが心配やからここに居る」
「分かった。ほな、場所だけ教えてや」
白石さんと金ちゃんが話してる間、忍足さんが私の近くに来てくれた。
「心配せんでええよ。何があったか知らんけど、絶対解決するわ。落ち着くまで一緒に居たるで」
…あー、なんで四天宝寺の皆さんはこんなにも優しいんだろう。
「ありがとう、ございますっ」
なんとか絞り出した声がちゃんと伝わったのか、忍足さんはニコッと笑ってくれた。