財前ドキサバ
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お昼の探索から、財前君は私のことを名前で呼ぶようになった。急に呼ばれたからドキッとしたけど、嫌な気は全然しなかった。むしろ、嬉しかった。だから私も、『光君』って呼ぶようにしたんだけど…なんだか凄く恥ずかしくなっちゃって、それからしばらくは光君の顔が見られなかった。
夕食を食べ終え、これから鳳君主催の2年生懇親会が始まろうとしている。参加者は鳳君、日吉君、桃城君、神尾君、伊武君、光君、彩夏、私の8人。他の2年生は焚き火当番とかミーティングとかで参加できないようだ。私と彩夏は参加してもいいのか不安だったけど、鳳君が『ぜひ』って言ってくれたから参加することにした。
「…で、集まったはいいけど、懇親会って何するの?」
「全国大会前にテニスの話をするわけにもいかないだろ」
伊武君と日吉君が、鳳君に尋ねる。
「普段は顔を会わせないから、この機会に交流出来ればって思ったんだけど…。日吉の言う通り、全国大会前にお互いの情報をばらすのも何だかおかしいし、今回は辻本さんと日向さんも参加してくれているから、テニス以外のことで盛り上がれないかな?」
鳳君の提案に、真っ先に返事をしたのは神尾君だった。
「だったらこれやらねぇか?大人数でやったら面白いと思って持ってきたんだ」
そう言って神尾君が取り出したのは、カードゲームの定番、トランプ。これならみんなで出来るし、テニスの話をするよりは私達も参加しやすい。
「お。いいもん持ってきたじゃねーか、神尾」
「だろ?マムシがいねぇのは残念だけど、お前で我慢してやるぜ。桃城」
「あんだと?やんのか?」
今にも喧嘩を始めそうな桃城君と神尾君。ハラハラしていたら、2人の間に鳳君が入った。
「まあまあ、決着はトランプでつけるってことで。辻本さんと日向さん、トランプでもいいかな?」
「はい、もちろん!ね、れいな」
「うん、私も賛成です」
「よかった」
日吉君、伊武君、光君も賛成し、みんなで話し合った結果、ババ抜きをすること決まった。伊武君の「せっかくだからチーム戦にしない?」という意見で、グーパーで4ペアに分かれることになったんだけど…。
「れいな、グーや」
「えっ…」
近くにいた光君が、私の耳元でボソッと呟いた。どういう意味で言ったんだか確認しようとしたんだけど、その前に掛け声が始まってしまって…。
「あ」
言われた通りにグーを出したら、光君もグーを出していた。たまたまグーを出したのが私と光君だけで、さっそくペアが1組決定した。
「決定やな」
「……っ!」
光君が私を見てニヤッと笑った。どうしよ、凄くかっこいい…。
「れいな、何顔赤くしてるよの」
「う、うるさいよっ」
隣にいた彩夏に小声でからかわれる。言われなくても、自分の顔が真っ赤になってることなんて気づいてるよ。たぶん、光君にもバレたと思う…。
その後のグーパーで、神尾君・桃城君ペア、鳳君・彩夏ペア、日吉君・伊武君ペアに決定した。グーパーで分かれたにしては、いい組み合わせだと思う。また喧嘩を始めそうな神尾君、桃城君をなだめながら、ババ抜きが始まった。
「俺がトランプ持っとくから、れいなが引いてええよ」
「あ、うん」
私たちの順番が回ってきて、お隣の日吉君・伊武君ペアから1枚選ぶ。…あ、さっそくババだ。やってしまった。光君に見せると、何もなかったかのように「そろわへんなー」と呟いた。さすがポーカーフェイス。ババ抜き強そう。その後は順調に枚数が減っていって、途中で隣の彩夏がババを引いてくれた。彩夏のバレバレな反応に鳳君は笑っていたけど、「大丈夫大丈夫」とフォローしてあげていた。…なんだかこの2人、いい感じ。
しばらくすると、なんと私と光君のペアが1番にあがった。光君と軽くハイタッチをしていると、大きな叫び声が響いた。
「あ゛ー、桃城!何ババ引いてんだよ!」
「う、うるせー!しょうがねーだろ、引いちまったんだからよ!つーか引いたこと言うなよ、バレちまうだろ!」
「お前が引かなきゃよかったんだよ!」
…あーあ、また喧嘩してる。他のペアはこの2人の喧嘩にもう慣れたのか、おかまいなしにババ抜きを続けていた。
「よし、あがりだな」
「2番か。微妙だなぁ。ビリじゃないだけましなのかなぁ」
次にあがったのは日吉君・伊武君ペアだった。他のペアを見てみると、鳳君・彩夏ペアは残り1枚、神尾君・桃城君ペアは残り2枚。そんな中、彩夏がうんうんと悩みながら1枚引き抜く。どうやら揃ったようだ。
「やったー!あがった!」
「ほんと、よかったね」
喜ぶ2人の横で、最下位が決定した神尾君と桃城君はまたもや喧嘩をしていた。
「桃城!お前が悪いんだからな!」
「はあ?お前何もしてないくせに文句言うなよ!」
「うるせー!ペア変えてもう1回やろうぜ!」
そんなこんなで、ペアを変えながらトランプを続けた。遭難してるっていうのを忘れてしまうくらい楽しくて、仲間っていいなって思った。私達も招いてくれた鳳君に感謝しなきゃな。