財前ドキサバ

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その日の夜、私は不安な気持ちを和らげようと焚き火のある広場に向かった。火の前でゆっくりしていれば自然と落ち着くことができると思ったからだ。



広場に着くと、そこには思わぬ先客がいた。


「あれ、財前君?」


財前君は私に気付くと「おぉ」とだけ返事をした。焚き火にに薪をくべているところを見ると、どうやら今晩の焚き火当番は財前君のようだ。


「俺に用か?」

「ううん、焚き火にあたりに来ただけだよ。財前君は焚き火当番なんだね」

「おん、じゃんけんで負けてさっそくやらされとる。ほんまあの先輩らありえへんわ。負けてくれればええのに」


あの先輩ら、とは白石さんと忍足さんのことだろう。きっと四天宝寺の中で当番を決めることになって、財前君が負けたってことなんだと思う。何だかんだ言いつつもしっかり当番をしてるんだから、根は真面目なんだろうな。


「座らへんの?」

「邪魔じゃない?」

「別に」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」


財前君から少し離れた場所に腰を下ろす。財前君は私が座ったのを確認すると、また焚き火に視線を移した。どちらも口を開くことなく、ただ火を見つめる。初対面なのに不思議と気まずくはならない。私は自分の中の不安と向き合うことにした。しばらくの間、広場には火のパチパチという音だけが響いていた。





どれくらい経ったのだろう。気が付けば用意されていた薪が残りわずかとなっていた。けれど私の不安は拭えぬまま。ここに来る前よりは感じなくなったけど、ここを離れたらまた不安なことばかり考えてしまうのだろう。ちらっと財前君を見ると、ちょうど財前君もこっちを見たようでばっちりと目が合った。


「………」

「………」


お互いに目を逸らすタイミングを逃し、無言のまま見つめ合う。これはさすがに気まずい。何か話そうと思っても特に話題が浮かばず、先程から考えていたことについて聞いてみることにした。


「あのさ」

「なんや」

「財前君はこの先が不安じゃない?」

「別に」


財前君は少しも表情を変えずに即答した。この状況で断言出来るなんて凄いな。


「日向は何が不安なん?」

「本当に救助が来てくれるのかなぁとか」

「他には」

「お父さんや先生方は無事かなぁとか」

「他には」

「私達、ここで生きていくことが出来るのかなぁとか」

「他には」

「…それくらいかも」


不安だらけだと思っていっぱいいっぱいだったけれど、口に出してみれば案外少ないことに気がづいた。財前君は少し考えたあと、また口を開いた。


「最初の2つは誰かが助けてくれるのを待つしかないし、時間見つけて探すしかない。はっきり言うて運やと思う」


運、かぁ。確かに頑張ってどうこうなるものじゃないけど、そう言われると少しへこむ。


「せやけど最後のはちゃうよ」

「え?」

「運なんかやなくて、自分達でやってかなアカンねん。不安になるんやったら、不安にならへんように出来ることをやらなアカン。食べ物を探すなり水を汲んできたり、生きていくために必要なことは沢山ある。一人で無理やったら誰かに頼ればええよ。こんだけ男が居るんやから、誰かしら力になってくれるやろ」

「………」


思わずきょとんとする私を変な目で見る財前君。さぼるとかやらされてるとか言ってるけど、本当は真剣に考えてしっかりと向き合ってるんだ。失礼だけど、それが今までの財前君のイメージとは別物だったからびっくりしてしまった。私だけがこの状況にいるわけじゃなくて、みんな一緒で、みんなもみんななりに悩んで頑張ってる。そう気付けたら、自分だけがうじうじ悩んでて恥ずかしくなった。


「ありがとう」

「は?」

「元気出たよ」

「…ほうか。元気出たんなら早よ小屋戻って明日に備えや」

「うん、また明日ね」

「へいへい」


今の私に出来ることは何だろう。小屋に戻ったら彩夏と相談して考えてみようかな。女の子だからできること、気付けることがあるはずだ。それに、必要ならば誰かに頼ればいい。私は一人じゃないんだから。もし財前君に頼ったら、私の力になってくれるのかな。





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