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□a secret flim番外編〜love letter〜A
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a secret film 番外編〜love letter〜A
ゼル・ディンはリノアとセルフィの通う高等学校のクラスメイトであり、熱血空手マンとして校内では有名であった。全国大会の出場経験もある。来年の大会にむけて、日々空手に打ち込む毎日であった。
一日のスケジュールはというと、朝練を経て、授業中はもっぱら居眠り。早弁をして、昼休みも練習に励み、数学のテストに頭を悩ませる。そのときついつい奇声をあげてしまい、先生からは怒鳴られ、クラスメイトからは笑われてしまう。けれどそれは、ばかにしたような感じではなく、またやったかと微笑ましく見られるものなので、愛されるキャラクターとして彼はクラスに定着していた。
そして意外なことに彼は非常に物知りであった。国語が得意ということではない。彼は練習の息抜きに本を読む習慣があり、それで図書室の本を物色するうちにあらゆる知識が彼の頭に集約された、というわけだ。
そんなある日だった。
「あの、ゼルさん!」
「あん?」
スポーツバックを振り回しながら、廊下を歩いていたら後ろから声をかけられた。振り向けば長い髪をきっちりと三つ編みにした少女が息を切らしていた。
「わたし、知っていますか?あの図書室の…」
「ああ、いつもありがとうな。て、俺もしかして返してない本でもあるってか?!」
そう言うとあたふたとゼルは焦った。学校の図書室には頻繁に通っているゼルだが、そこで親切に、新作の情報やおすすめの本など、あれこれと教えてくれるのが目の前の少女だった。
「ち、違います!あの…」
「あ、違うのか?なんだ?」
返し忘れがなくてほっとするゼルだったが、目の前の少女はなにやら言いにくそうに、もじもじとしている。ゼルは熱でもあるのかと思い、近づいた。顔が真っ赤だったからだ。
「どうしたんだ?」
「あ、あの!これ読んでください!」
ゼルが急に近づいてきたので、驚いた図書委員の少女は驚いたように後ずさり、ゼルを押しのけるように手紙を突き出した。それをゼルは勢いに押されがちに受け取った。
「なんだこれ?」
「じゃ、じゃあわたしこれで失礼します!」
「お、おい!」
「まてよ」と止める間もなく、図書委員の少女は勢いよく頭を下げ、背を向けて廊下を駆けて行った。一方のゼルはぽかんとした表情でその場に立ち尽くしていた―…
-*-*-*-*-*-
「…というわけなんだよ」
「きゃ〜なんかその子かわいいなぁ〜」
「すごい!大胆な告白だね」
ゼルは気恥ずかしさから、ぐったりと項垂れる。一方のセルフィとリノアはなぜか興奮して、きゃっきゃっと騒いでいた。そんな彼女たちの様子をゼルはげんなりとした様子で見ていた。
ここは学校の屋上だ。ゼルのラブレター騒動の翌日である。朝、ゼルはリノアとセルフィが他愛のない話をしている最中に声をかけてきた。見れば目の下に大きな隈ができており、「相談がある」と生気のない声が彼の口から紡ぎだされた。リノアとセルフィはびっくりしながらも、昼休みに屋上で詳しく話を聞くことにしたのである。
「それでどうしろっていうんだよ…って感じでさ。もう無視していいかな」
「よくな〜い!だってこれから返事しなきゃいけないじゃん!ゼルのことだからどうすればいいかわかんなくてうじうじうじ一晩悩んだんでしょ?こういうことに関しては疎そうだからね〜!」
「うっ…」
的確なセルフィの指摘にゼルは後ずさる。やっぱりセルフィは侮れないやつだと内心思った。でも確かにそうだ。ゼルは今まで一度も告白をしたことも、されたこともなかったのだ。
「だから乙女の代表であるあたしとリノアがゼル君の恋を全面サポートいたしま〜す!」
喜々として立ち上がり、宣言するセルフィ。だが何か考え事をしていたリノアはちょっと待ってと制した。
「セルフィ。大事なこと忘れてるよ。恋のサポート云々の前に、ゼルはその子のことどう思っているの?」
びくっとゼルの肩が跳ね上がる。悩みの種は実はこれだったのだ。
「そ、それは…」
大きな透き通った黒の目で覗きこまれて、ゼルはごにょごにょとお茶を濁す。セルフィもあーそうだった!思いついたように叫びながら、覗き込んだ。
「それは?」
「それは…」
いかにもわくわくした様子で見守る女子2人。ゼルは顔が真っ赤になったと思うと急に頭を押さえて抱え込んでしまった。そして…
「あーもうわけわかんねー!好きとか言われてもわかんねーよ!」
ゼルは今までの混乱を振り払うかのように大きな声で叫んだ。リノアとセルフィはその声に驚きながらも顔を見合わせてまたまた呆れたように首を振った。
to be continued…