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□a secret film番外編〜love letter〜B
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a secret film番外編〜love letter〜B




「ディン!なにぼさっとしている!組手始めるぞ!」

「お、押忍!」

ゼルは先輩に怒鳴られ、姿勢を正した。だが構えをしても一向に身が入らない。こんなに練習に集中できないのは生まれて初めてのことだった。ゼルは振り切るように体をとにかく動かし続けた。しかしどうにもうまくいかない。彼は珍しく悩んでいた。

「よし、10分休憩!」

主将の低くてよく通る声が響く。そこでようやく肩の力を抜いた部員たちは足早に水分補給に向かった。

この高等学校には武道館という施設がある。そこでは柔道部と空手部が日々の練習に励む。だが館というわりには中は狭くて、生徒たちの汗が空気中で濃縮したような匂いが漂っており、女子には煙たがられるところだった。

そんな中で‘彼女’は俺を見に来ていたのか。ゼルは真っ赤になって水筒のスポーツ飲料をがぶ飲みし、あぐらをかいて、タオルでごしごしと顔を拭いた。

屋上での出来事を振り返る。



-*-*-*-*-


「じゃあその図書委員の女の子とはよく話すけど、恋愛対象としてはよくわからないと…」

「恋愛」という2文字にゼルは落ち着きなく、そわそわする。セルフィとリノアは座るゼルを見降ろすようにたっていた。

「だったら返事するのは難しいね…でも嫌いじゃないんでしょ?」

「ああ、まぁそうだな…」

リノアは首を傾げてゼルを覗き込む。その瞬間さらっと黒髪が彼女の肩から舞った。

「じゃあ嫌いじゃなかったら付き合っちゃえば〜?ほら、付き合っていくうちに好きになるかもしれないじゃん!こうなったらいつまでも返事しないよ〜ゼルは」

セルフィはゼルの隣に座り、つんつんと彼を肘で小突く。ゼルはやめろとそれを振り払った。

「俺は…その、好きでもないのに相手と付き合うなんてことは絶対したくないんだ。そんなの相手が傷つくような…気がしてさ。それにもし俺が好きじゃないと気付いたらどうするんだ?俺も相手も嫌な思いをするだけだろ?」

「は〜律儀だねぇ」

「うん、ゼルらしいね」

セルフィは参ったという風に頭をかく。リノアはそんな彼の性格が好きでうんうんと頷いた。

「だから俺はちゃんと考えてから返事をしたい」

「好きかそうじゃないか確かめてから?」

「そうだ。だからその方法を教えてくれないか?」

ゼルはパンと手を合わせ、懇願する。リノアとセルフィは顔を見合わせた。そしてセルフィが大きな声でびしっと人差し指をゼルに突き付けて言った。

「そんな方法ない〜!それは自分の心に聞いてみるしかないんだよ!」

「ええ?!そうなのか…」

ゼルはのけぞるようなアクションをする。そして手を自分の胸に当ててみた。それを見たリノアはぽかんとし、セルフィは眉間に皺をよせた。

「ゼルなにしてるの?」

「…なにって自分の心に聞いてみるんだろ?いま集中してるから」

「…で、それでなにかわかる?」

ゼルはいつも練習前にしている精神統一のように正座して目を閉じる。だがはぁ〜と頭を項垂れた。

「なんもわかんねぇ…」

「当たり前や」「当たり前だよ」

セルフィとリノアに同時に冷たくつっこまれる。ゼルは激しいオーバーアクションで怒りをあらわにした。

「じゃあどうすればいいんだよ!」

「まず相手を意識するんだよ!相手の女の子を見て、かわいいとかどきどきするとかちゃあんとわかったら付き合えばいいんだよ!まず三つ編みちゃんのことよく見て!考えて!」

「そうやで〜!なんでそんなボケをかますかな。あんた今何考えてたんや?俺は好きなのか?ぐらいしか考えなかったんちゃう?まぁこれがワンステップや。がんばってや〜」

「な!女子のこと考えるなんて…そんな柄にでもないこと…」

ゼルがびっくりしたように言おうとして…



キーンコーンカーンコーン…

昼休みが終わり、予鈴がなった。セルフィとリノアはゼルを引っ張りながら教室へと向かった。


-*-*-*-*-



「相手を見る…か…」


今日の部活が終わり、帰路を急いでいるゼルである。学ランを折って腕まくりし、スポーツバックを肩からかけて悶々と呟く。一定の間隔で置かれている街灯以外はもうすっかり夜の世界に染まっていた。集合住宅地にゼルの家はある。いくつも一軒家が連なる路地をとぼとぼと歩く。どこからか犬の鳴き声がした。

「俺があの子について思うこと…」

三つ編みのあの少女と言えば、図書館だ。ゼルは図書館でのやりとりを思い出す。目当ての本が見つからなくて、必死に探していたときだった。

-*-*-*-*-



「ここらへんのはずなんだよなぁ…」

ゼルは静かに呟く。今巷ではププルンというシリーズの本が話題みたいだ。ゼルはその情報を聞き、さっそく図書室へ出向いた。

ここの図書室は高校ながら、広いスペースがあり、自主勉強もできるゼルお気に入りの場所だった。最もここで勉強などしたことがないが。それでも数多くの蔵書をあさり続け、今では学年一の雑学王としてゼルは名を馳せていた。

ゼルは「プ、プ、プ…」唸りながらふ行の本棚に目を走らせる。だがププルンという文字はいっこうに目に見つからず、頭を掻きながらう〜ん…と無意識に声を出した。

「んだよ…ププルンってどこだぁ?」

そのときだ。

「ププルンシリーズは人気シリーズなので現在すべて貸し出し中なんですよ。ごめんなさい」

後ろから声をかけられ、ゼルははっと振り返る。すると三つ編みの長い髪の毛が印象的な女の子が控えめに微笑んでいた。数冊の本を抱えている。

ゼルは独り言を聞かれた恥ずかしさからかぁっと顔が赤くなった。しかし真摯な対応をしてくれた図書委員の女の子に礼を言わないのもあれなのでまた頭を掻きながら、答える。

「あ、そうだったのか…ありがとうな、教えてくれて…」

「いいえ。もしよろしかったら予約ができますよ。今借りている人から返却してもらったら、ゼルさんが真っ先に借りられます」

「え、そうなのか?じゃあ予約するぜ」

「ではこちらへどうぞ。お名前とクラス、出席番号を書いてくださいね」

そう言われるとカウンターまで案内される。ゼルは女の子の背中に続きながら、彼女の丁寧さとつつしまやかさに好印象を抱いていた。

「この用紙にご記入お願いします」

「サンキュ」

ゼルは受け取り、カウンターでがりがりと記入し始める。その様子を見ていた図書委員の女の子はくすくすと笑っていた。

「…?なんだ?」

「いえ、ゼルさんあまりに真剣に書かれているから…まるでこの本は俺のだぞ!って顔に書いてあるみたいですよ」

俺そんなことまで顔にでるのか。内心猛省しながらゼルはある疑問にぶつかった。

「なぁどうして俺の名前知ってるんだ?同じクラスだったっけか?」

今度は図書委員の女の子が真っ赤になる番だった。

「あ…学年は一緒ですけど…そうですね、同じクラスにはなったことはありません。でもゼルさんすごく有名だから…ほら、空手とか。わたし試合見にいったりしているんですよ」

「そうか…ありがとな!」

ゼルはにかっと笑った。その瞬間白い歯がきらめく。しだいに女の子の顔がますます真っ赤になって、そのときゼルはどうしたのかと思っていた。


そしてあれから図書室に行っては声をかけられたり、ゼルが本探しの助けを求めたり…という繰り返しだった。いつも笑って、でもときどき真っ赤になり、ぼそぼそと呟くような喋り方をしていた彼女。あれは…俺を意識してのことだったのか?いやいや、自意識過剰だろ!

ゼルははっとして顔をあげる。いつの間にか家の近くの公園まで着ていた。そして…その公園の入口近くに座っていたのが、さきほどまで頭の中心にいた彼女だった。



to be continued…
 

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