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□彼、例に洩れず、男子です。
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彼、例に洩れず、男子です。
スコールの休日であった今日、彼とリノアの2人はバラムのとあるレストランで食事を楽しんだ。
なんでも名物であるバラムフィッシュを使った創作料理がおいしいとの評判の店だった。セルフィから情報を入手したリノアはさっそくスコールにその話を語って聞かせた。
リノアのそのあまりに期待に満ちた顔にスコールは驚き、また苦笑した。そして休日の予定に快くそのおねだりを組み込んだわけである。
その食事の帰り道。
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「はぁ〜やっぱり人気があるだけあって、すっごくおいしかったね!わたしあんなにおいしいお魚料理、生まれて初めて食べたよ!」
リノアは帰りの車の中ではぁーと満腹感に酔いしれたため息をはき、嬉しそうに顔を綻ばせた。そんなリノアをスコールは運転をしながら横目でちらりと見て、くくっと笑った。それに素早くリノアは反応する。
「なあに?その今にも噴き出しそうな笑い方は」
「いや、あまりに嬉しそうだったからな。うまかったか。よかったな」
「もうなによ、その他人事みたいなしゃべり方!スコールは美味しくなかったの?」
リノアはぷくっと頬をふくらます。スコールは前方を見ながら言った。
「いや、俺だってうまかったと思っている。ただ量が足りなかったな」
「えっ?!でもスコールだけお肉料理も頼んだじゃない?まだ足りないの?」
「ああ、腹7分目ってとこだな。だが俺はデザートは食ってないぞ」
「うっ…あ、あれだよ!デザートは別腹だよ!」
リノアは一目でわかるほど動揺し、ほんの少し顔が赤くなる。そんな彼女に内心苦笑しながらも、スコールはからかうことを止めない。
「いいのか?今年も海に行くんだろ?」
リノアははっとして自身の腹部に手をやる。そして我に返ったように慌ててスコールを睨みつけた。
「だからデザートは別腹!女の子に甘いものは不可欠なんだよ!いいもん。これからダイエットするから」
スコールのいじわる。といってリノアは窓の外の景色に目を移す。そんな彼女の横顔を見ながらスコールは悪かったと一応謝った。
「冗談だ。…リノアは今のままでいい。これ以上やせたら骨だけになるぞ」
「うそばっかり」
「本当だ。ダイエットは俺がさせないから」
「えー…どうやって?」
リノアはようやくスコールのほうを振り向く。それを待っていたかのように彼はにやりと笑った。
「そうだな。休日の時は1日中捕まえておくとか」
リノアは目を真ん丸く開く。
「食事の時は無理やり肉を押し込むとか」
「いや!それはやめて〜!」
リノアはスコールに捕まえられながら食事をする光景を想像し、手をぶんぶんとふりながら笑う。ようやく彼女らしい笑いがこの空間を包んだ。そんな彼女をスコールは目を細めて眺める。
−…車は夕暮れの光を反射して、あと10分でガーデンにつこうかというところに差し掛かっていた。
そのときだ。スコールがなにか、違和感を感じる。微笑をたたえた顔が急に険しくなったのだ。
「どうしたの?」
リノアが首を傾げる。スコールは顎をしゃくって後ろのほうを示した。
「…煽ってきているな」
「え?」
リノアは後ろに振り向く。見ればスポーツカーが一台、この車の後ろにぴったりとくっついていた。
しきりに左右に走行し、ライトをちかちかとさせている。乗っているのは同じ年か少し上くらいの男と女だった。こちらを見て、にやにやと笑っているのが分かる。リノアはその笑い方が明らかに嘲笑っていると形容できるので不快になった。思わずむっと眉間にしわを寄せる。
「リノア、もう見るのはよせ」
スコールの声でリノアはあ、ごめんといいながら正面に向き直る。ちらっとスコールを見れば彼は前を向きながら心なしか…同じく眉間にしわが寄っていた。
(無視するのかな?)
スコールのことだからこんなことでも軽く受け流すだろう…とリノアはなんとなく思っていたのだった。
-*-*-*-*-*-
「う〜んしつこいね…」
あれから5分後。まだ例の車は後ろでなにやらアピールをしている。それもますます過激になってきていた。ちょっとスピードを落とせば危うく事故になりそうでリノアはハラハラする。
それでも後ろを振り向くのを堪え、リノアは呟いた。サイドミラー越しに後ろを窺う。これではまともにドライブを楽しむこともできない。スコールも運転にかなり気を使っているに違いない。それでも彼の表情にはあまり変化がなかった。
「止めてって言おうか?」
「いや、そんなことする必要ない。逆に相手が調子に乗るだけだ」
「じゃあほっとく?」
「そうだな…」
そのとき。スコールの手がギアに手をかけた。リノアはその時の瞬間を見逃さなかった。
まるでこれから獲物を狩るような目をして−…
「リノア、しっかりつかまってろよ」
「え?」
そう言うや否や、スコールはぶぅんとエンジンを加速させた。リノアは「わ!」と言って、上体を揺さぶられる。慌てて手すりにつかまった。
「スコール?!レースでもするつもり?!」
リノアはあまりのスピードに慌ててスコールに物申した。そしたらスコールは振り向き、少し笑った後、こういったのだ。
「いいかげんしつこいからな。戦意喪失させてやるさ」
「え〜?!」
そしてこのあと、時速100キロは超えているであろうスピードで、スコールはドライビングテクニックを存分に披露していった。
そしてあっという間に後続の車は姿を消していった…
-*-*-*-*-
「もう、びっくりしたじゃない!普通の道であれだけスピードだすなんて!」
ガーデンの駐車場でリノアは汗をぬぐいながらシートベルトも外さずにスコールに言った。スコールはしれっとしながら余裕の笑みをこぼす。
「SeeDをなめるなよ。たとえ横断者がいてもあのスピードのまま避ける技術は身に付いている」
「でも普段から出さなくてもいいじゃない」
「……」
「もしかして、あの後ろの車に負けたくなかったの?」
スコールはちらりとリノアを見て正面を向いた。
「…あれはやられるとさすがにな。実力をみせつければもう、今後あんなこともする気が失せるだろう」
スコールのその表情はどこか勝ち誇ったような顔でリノアは内心あきれる。
「スコールって意外と負けず嫌いだね」
「これくらいでなければSeeDにはなれない」
「またごまかして〜!」
「…さあ、そろそろいくぞ」
「あ、待って!」
バタンと扉を閉めて、2人は歩き出す。
リノアは隣を歩くスコールが上機嫌であることを感じ取って、あきれるやらおかしいやらだった。おまけに相当気分がいいのか車を降りたら、荷物を持っていないほうで自然に手をつないで歩いてくれている。ガーデンではとても珍しいことだった。
(スコールも子供っぽいとこあるよね。わたしのこと言えないじゃない)
普段からかわれることを逆に言い返してやりたい。でも言ったらまたしっぺ返しをされそうなので今は黙っておいた。でも堪え切れなくて口が緩む。
「…なんだ?なんで笑っているんだ?」
「ううん、別に」
「変なやつだな」
今度はさっきとは違う頬笑み。それは今までの態度から一変して包まれるような笑みだった。
(子供っぽいところもなんだかかわいいかも)
出会ったころに比べていろんな表情を見せてくれるようになった。これからも見つけていくからね。
2人はゆっくりとスコールの部屋に向かう。リノアは繋いだ手に力をこめた。