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□黒シャツとチェリーパイ
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パラ…パラ…と紙をめくる音が部屋に木霊する。スコールは自身のベッドに寝転び、雑誌の中身をざっと見まわして、気になる記事をじっくりと眺めていた。新たな武器がエスタで開発されたらしい。これはマメにチェックしなくてはと彼は興味をそそられた。


時刻は午後8時。多忙な司令官にしては珍しく仕事も早く終え、こうしてゆったりと私的の時間を満喫している。SeeD服を脱ぎ、黒のスウェットに着替えていた。


スコールはごろんと寝がえりをうった。彼の柔らかな髪がとたんにくしゃとつぶれ、一部は丸まったままの状態になる。スコールは鬱陶しそうに髪を掻き上げ、とたんに元通りの状態になった。掻き揚げた手は重力に従ってぼすんとベットに落ちる。


(…あきたな)

スコールは雑誌を傍らに置き、ふぅと息をついて天井を見上げる。いつも通りの染み一つない天井。だが今日は少し黒ずんで見えた。

ギシッと音を弾ませてスコールは身体をおこし、机に置いてあったコーヒーを飲もうとする。だが、やめた。なぜならマグカップ自体がひどく冷えてしまっていて、色も怪しく黒ずんでいたからだ。スコールは眉間に皺をよせながらカップをもってキッチンに入る。どろどろとまるでヘドロのように見えるそれを流しに捨てて、スコールは軽くマグカップを洗った。…とたんにすることがなくなってしまった。


スコールは再びベッドに横たわる。ちらっと壁にかけられている時計を見ると8時半に差し掛かろうとしていた。

(…遅い。まさか事故にでもあってるんじゃないだろうな?)


スコールはそんなことを思いつき、寝転んだままではあったが、落ち着かなくなる。彼の眉間の傷がぐにゃっと歪んだ。



彼女…リノアからは7時には帰るとメールがきた。ところが未だに彼女は姿を見せてはいない。今日は午後からSeeD仲間である、セルフィと一緒に市街地へ買い物に出かけているのだ。

スコールは横たえていた身体を起こし、ベッドに腰掛ける状態となる。膝の上に腕をのせ、両手の親指を転がす。何分その状態でいただろうか。やがて無表情だった彼の顔からささやかな笑みがこぼれる。
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