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□近くにある、しあわせ
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カタカタカタカタ…


さっきからスコールはずっとパソコンに向かって、溜まりに溜まった報告書作成に精を出している。そんな彼の姿をわたしは、ベッドの上に寝ころびながらじっと見つめる。たぶんスコールと同じく、眉間には皺を寄せているに違いない。

抱えていた彼の枕にボスっと顔を埋めて深くため息をついた。さっきからずーっと彼の背中を睨みつけて、名前を呼んでいるのに、彼からの返答は無機質なタイプを打つ音だけ。待ち望んでいる視線や声はない。おそらく彼の頭の中は、完了した任務のことでいっぱいなのだろう。ここではないどこかへ飛んでいるのだ。

ボスっボスっと足でベッドを叩いてみたりして、気を引き付けようとする。けれどその音は室内にかすかに響いただけで、すぐに消えうせてしまった。わたしはそれでも彼の反応がないことにますますむっとして、「アー…」とか「う―…」とか変な声を出してみた。けれど返ってくるのはまたしても沈黙のみ。

(…や〜めた)

これ以上なにかしても無意味だってことに気づいて体をよっと起こした。ふいに窓の外を見てみる。2匹の鳥がじゃれあって雲ひとつない空を飛び回っていた。そんな眩しい光景を、私は目を細めて見つめる。そして心の中でそっとつぶやく。

(バカスコール…)


彼の背中を睨んで、べーっと舌をだした。
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