年越しの夜

予想はしていたがやっぱり頭の悪い連中が顔を揃えてしまった



『鍋するならキムチでしょ!?あんたほんっと常識無いんじゃないの!?』

「年越しまでうるせぇメスだな。それと別に俺はなに鍋でもいいがお前の思い通りだけにはさせねぇ



見下しながら私を指さす跡部は憎い。私にとって憎悪の塊だ。あいつは

大体なんだ。せっかくの年越しだからテニス部でパァーっとやろうってのに!

長太郎とか日吉とか樺地の中学生トリオも呼んだのに!




「大晦日なんだから喧嘩はやめや。な?」

『うるさい眼鏡!人の喧嘩に首突っ込むなバカ!』

「先輩、せっかくの大晦日なんですから…。楽しくやりましょう?」

『うん。わかったよ長太郎』

「なんやその俺との差!?俺なんかしたん!?」

「忍足先輩。こういうときは柔らかく物事を言えば平和に解決するんですよ」

「言うたよ!?ものっそい優しさ出しとったよ!?」

『忍足。人間は平等なんかじゃないの。それとあんたの優しさは不愉快だから」

「満面の笑みで言うな!あと神でもないお前が人間語るなアホ」

『神じゃないもん。妖精だもん

「うーわ!ざけんなよ!お前のせいで俺超鳥肌立ってんじゃん!」

「つーかさっさと選べよ!寒ぃんだからさっさと帰ろうぜ」




ついに宍戸が激を飛ばした

スーパーの鍋の素コーナーでもめる高校生と中学生

カゴには白菜や豚肉や豆腐が盛りだくさん入っている

鳥肌をさする岳人のカゴにはお菓子や2リットルサイズのジュース

こんな高校生と中学生がスーパーで大声で言い争う光景すごく珍しいと思う




『だーかーら!キムチでいいじゃん!跡部はなに鍋でもいいんでしょ?』

「なに鍋でもいいがお前の意見だけは通したくねぇんだっつの。お前だけはな

「ええやん。じゃあ適当にカレー鍋とかにしてはよ帰ろや」

『私は忍足の意見だけは通したくないの!』

「おい。一生終わらねぇぞ」



宍戸の呆れたツッコミ

言うまでもないが日吉なんかは言葉を発するまでもないらしい

滝は滝で「コラーゲン鍋ってのもいいよね」とか新たな意見を出してきやがる

今さらだが自由すぎる。氷帝テニス部




「もうオーソドックスな水炊きでいいんじゃないですか?」



遠慮がちに長太郎が手を挙げた



『うん。そうしよう!私も水炊きが一番良いと思ってたんだ』

「テメェさっきまでキムチの一本攻めだったじゃねぇか」

『さっきはさっき。今は今。過去は振り返らない主義だから』

「君ほど我が道を進んでる人間はいないよね」

「ねーえねーえ!俺ミソ鍋がいいんだけど」

「やっと話が丸くなったとこで何でお前が登場すんねん。ジロー」

「っち。どれもこれも安いもんばっかだな。高級な食材がねぇってのはどういうことだ。アーン」

「なぁアイス買うだろ。買えよ宍戸。宍戸といったらガリガリ君だよな」

「なんで寒ぃ日にアイスなんだよ。激凍えるじゃねぇか。普通肉まんだろ。おいコンビニ寄ろうぜ」





…というか全員が我が道を進んでると思うんですが

滝の言葉に否定はできないが訂正はしたい

我が道を進んでるのは私だけではなくここに居る全員です



『じゃあ早く買って早く帰って早く食べよ』

「時間かかるのヤだし分けてレジ済ませようぜ」

「じゃ、俺お菓子系担当ー!」

「なら俺は鍋の食材買ってくるわ」

『おっけー。じゃあ日吉はえのきね!』

「なんでえのき単体で買わせようとするんですか。忍足さんのカゴに入れればいいでしょう」



と、渡されたえのきを乱暴にカゴに突っ込む日吉

うん。小さなボケをも拾ってくれる日吉大好きだよ

なんだかんだ日吉はボケをツッコんでくれるんだよ

まあボケの8割はスルーされるが




「割り勘は家帰ってからでいいですか?」

「遠慮すんなって鳳!これ全部跡部のおごりっぽいし!」

「誰がそんなこと言った。煮るぞ

「ケチな金持ちって一番性質悪いで」

「そーそ!もっと心を広くしろよ!俺を見習えっての」

「せやで。たまには優しいとこ見せたりや跡部」

「いいからさっさと買ってこいポンコツダブルス!」



跡部に叱られそそくさとレジに並ぶ忍足

ブーブー文句を言いながらも忍足が並ぶ隣のレジに行く岳人

ポンコツダブルスと言われた2人を鼻で笑った日吉を私は見た

絶対後でチクろう













『さっむ!!』


会計を済ませてスーパーの外に出ると寒さが極限に達していた

雪こそは降っていないが凍りそうな空気に耳が取れそうだ

マフラーをきつく結び、手袋をした手をパーカーのポケットにつっこむ



「凍えるC!日吉おんぶ!」

「嫌です」

「ケチ!」

「自分で歩いてください」

『私ならいいでしょ。日吉。おぶって』

「なにを根拠にそう言えるんですか。というかアンタが一番嫌です

『いいよ別にー!長太郎におぶってもらうから!』

「いや、俺は荷物があるんで…。すみません先輩」

『じゃあその荷物私が持つからおぶって』

「それ結果的にあんま変わんねぇだろ。バカ」

『あー!今バカって言った!宍戸のくせに!』

「うっせぇな!そこのオスを誰か黙らせろ」




オ・ス?オスときましたか。この大和なでしこと言われる私を

私の前を歩く跡部の膝裏に蹴りを入れれば、思いっきりぶたれた

2リットルジュースが3本入った袋




「勝てない相手に喧嘩売るのもうやめなよ」

『滝分かってない!全然分かってない。むしろ私が喧嘩売られたよ?』

「ちゅーか今から鍋すんのに喧嘩せんときや」

「でも跡部とこいつが喧嘩しないってのも問題じゃね?」

「つーかそれはそれで一つの怪奇現象じゃねえか?」

「…そうやな」



若干遠い目をする忍足と宍戸と岳人

自分で言うのもなんだが確かにそれは怪奇現象だ

跡部と私が喧嘩しないなんて日がくるのは来世になってもあり得ない気がする




「疲れたー。跡部ん家まだ着かないわけ?」

「もう少しだろ。つーかジローさっさと歩けよ」

「無理。ていうか岳人の荷物のほうが俺より軽そうじゃん。変えろよ」

「めんどくせーな。ほら」



珍しくジローの言うことを聞く岳人

お菓子がパンパンに入った袋をジローと交換する

しかし、




「…………やっぱ重い。変えて」



ブーと口を突き出して交換したばかりの荷物を岳人に渡すジロー



「ふざけんなよ!お前が変えろっつーから俺は……!あーもういい!いいよ!侑士に持たせっから!

「いや、おかしいで。今の会話に俺の名前が上がる要素一つもないやろ」

『しょうがないな。ここはアレだよ。間を取って忍足に持たせよう

「間取れてへん!全っ然取れてへん!結局俺やないかい!」

「アンタ達高校入ってちっとも成長してないんですね」

「クソクソ!生意気だな日吉。つーか俺は成長したっつの」

「どこがですか」

「身長5ミリ伸びた!」

「……………………………よかったですね」




その間とその冷ややかな目が相変わらず日吉らしい

私アンタのそういうとこ好きだよ!グッジョブ!

そして明らかに後輩に下に見られてる岳人!ドンマイ!

そんな気持ちを込めて岳人に親指を立てたら逆に折られた

このやろう…!







と、グダグダ喋ってる間に跡部邸に着いた

いつ見てもスケールがでかい家だと思う。もはやこれは城だ



「おら。さっさと入れ」

「お邪魔しまーす!やっふーい!」

「すっげー!やっぱでかいC!跡部ん家!かくれんぼしよ!」

「なに寝言言ってるんですか。今から鍋をするんでしょう」

『わーい!今日も暴れるか』

「おい樺地。この女つまみだせ」

『あー嘘嘘!嘘だってば!暴れません!静粛にしています!』



何回かテニス部でこの跡部邸に来ているので広くても場所は分かる

それは全員同じなわけで、みんな迷うことなく食事をする部屋に向った

今さらだがこの部屋は鍋とは全く雰囲気が違う

鍋っていったらもっとこう……コタツでこう…狭い和室でさ

まあ文句言ったらブチ殴られそうなので言わないでおこう





『ガス誰持ってきたの?』

「あー俺俺。待ってろ今火点けっから」



岳人がカチカチと火を調節している




「あ、俺みかん持ってきたんです。食べますか?」

『わー長太郎ありがとう!日本人の心を分かってるねぇ』

「母がみんなで食べろって持たせてきたんで…」

「俺一個もーらい!」

「ジロー、鍋の前にみかん食べるなや」

「Eーじゃんケチ!」



鍋を前にテンションを上げるテニス部の面々

この感じ年越しって感じでウキウキするよね!!

私は鍋の具材が煮えるのを待ちながらみかんをつまんだ

「せやからデザートは後やろ」って忍足に叩かれたのは言うまでもないけど

お前はオカンか









next→






[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ