L-SS(BOOK)01

□ひとりよがり
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あなたが居なくなったら私はあなたのあとを追って死ぬはずだった。あなたがいなくなった後の世界を何一つ想像することのできなかった私はずっと、そう思っていた。確信していた。それが私たちの終わりというかたちで、全部がゼロに還る。大自然の成り行きと同じように当たり前のことだとさえ思っていた。


だけど結局私はまだここにいて、息を吸って、吐いて、心臓はまだ動き続けている。引き摺られるように、でも、まだ。生きている。


空っぽの瓶。手のひらいっぱいに白の錠剤。眠るためじゃなくて、もう二度と目覚めることのないようにするための錠剤。



『ねぇ、はやくいかなくちゃ』


急かす私と、


『まって、もうすこしだけ』


一歩も動けない私。



別にこのちっぽけな人生にも肉体にも未練なんてありゃしない。ただ、終わってくれない。後から後から溢れ出した記憶の洪水、ちっとも途切れてくれないの。

いつも無表情だと思っていたけど、思い返してみればあのひとは意外にもきちんと腹を立てたり不貞腐れたり強気に笑って見せたりしていたなあ、とか。一度だけ見たことのあるあの寝顔がこどもみたいで、これじゃキラじゃなくて私にだって殺せてしまいそうだ、なんて物騒な冗談を思いついたこと、とか。考え事をしているときの近付きがたい感じとか、それが緩んだときの安心感だとか、そういったもの。

まだこの手の中に生々しく残っている。だって振り向いたらいつものあの椅子に座ったあなたが見えてしまいそう。なんでもない顔をしてどうかしましたか、とか言い出してしまいそう。そういう空気。鮮明すぎて、泣きたくなる。



分からないんだけど。問いかけたって答えなんて来ないの、知ってるんだけど。





竜崎はさぁ、私に来て欲しいかなぁ

それともこうやって竜崎のこと、思い出していて欲しいかなぁ


どっち?

ねぇ、返事してよ





私はあなたのところに行きたいの、気が遠くなるほど長い(であろう)これからの人生、あなたがいなくちゃつまらない。あなたなしで生きていくなんて、寂しいよりも退屈で、退屈で気が狂いそうなのよ。でも。

あなたのことを思い出している私って、ひょっとしてもう誰よりも何よりも何処に行くよりもあなたの近くに居る、ってこと?

それなら私、まだあなたのところには行かないほうがいいのかな


思い出せるだけあなたのことを思い出して、叫んでも届かない想いを抱えて、繰り返し繰り返し擦り切れるほどに巻き戻した記憶がいつか不意にぶっ壊れて再生不能になってしまうまで。


全うする、って。こういうこと?


私と共にあなたの人生を消化させてしまうってことが、もしかしたら可能かもしれないってこと?



それってもしかしたらすごく格好いいじゃない。地べたを這い回るように記憶を手繰って、これ以上思い出せるものは何一つないよってとこまで来たらまた始めから再生し直して、そして何度も思い出すんだわ、あなたのことを。

始めから、最期まで。


そうしたらきっと、今死んでしまうよりももう少しましな場所であなたにまた会えるような気がする。



決めた

私、もう少し生きてみる





私は手のひらいっぱいの白い錠剤をバラバラ、と床に落とし、代わりに竜崎の残した色とりどりの小さなチョコを全部手のひらにのせた。

一気に口に放り込むと、吐き気がするくらい甘い甘いチョコの香りがまた、鮮明な竜崎の記憶を蘇らせた。










END
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