words(BOOK)

□唯一無二
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目を閉じて、想像してみる

あなたという存在が欠落したこの世界のことを

考えてみる


あなたが居なくなったからと言って特に世界が変わるわけじゃない

変わらず動き続ける世界、そうでなくてはいけない

たったひとりの人間のために世界が終わってしまうなんて、そんなこと

あっちゃいけない


街も、人も、信号機も飛行機も

変わらずに機能し、僕を生かし続けてしまう

そのとき僕は世界を憎み、あらゆるものを遮断してしまうだろう

ほかの何ものも受け容れず、失ったあなたのことを


考え続けるだろう



そうしているうちにいつかもう一度僕はあなたに出会い、世界に目を向けるだろう


あなたの居ないはずの世界を見つめ、そこにあなたを探し始めるだろう

あなたがいたときとは全く別の世界に、僕は出会っていくのだろう

そうやってまた生き続けていく、それが想像もできないほどの想いを伴う道だとしても


僕を世界へと連れ戻してくれるのはたぶん、あなただけなのだと


今、すぐ傍で眠っているあなたを見てそう想う


唯一無二

二つと無い、唯一つのもの



それが僕にとってのあなたという存在

こんなに小さな身体で、丸ごと僕を包み込む


まるであなたは、生きた奇跡



そんな思案はつゆ知らず、あなたはすうすうと寝息を立てる


ふ、と笑みが零れる



灯りを消した部屋のなか、その呼吸に合わせるように


眠りに


落ちる










END
20100618


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