words(BOOK)
□海に還る水
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地球の内側に触れてしまえそうなほどに深い深い海の底で飲み込んだその水は、恐ろしく冷たい温度を保ったまま私の内臓に染み渡っていった。
この水は雨や雪になるはずの水だった。いつの日か空に立ち昇り、雲の一部に溶け込んで、ある朝地上へ降り注ぐはずの恵みの雨であり、真っ白な雪になるはずだったのだ。
私の中に飲み込まれてしまったそれは早くここから出たい、とでも言うように体内で暴れ回る。
まるで陸で溺れているみたい、と私は思う。
そしてその水が私の内側にあることで、私の中にある一本の線が保たれている。きっとこの水が出て行ってしまったら、私は完璧にこの乾いた陸の上で溺れて死んでしまうのだろう。
私がその水を手放そうとしないから、水もきっと空へ還ることが出来ないんだね。
私はきっと魚に成り損ねた出来損ない。水の中でうまく呼吸をすることが出来たなら。海に降る雨を、水の中で感じることが出来たらよかったのに。
それでも人間であり続ける私は、ただそれを陸から眺めているだけ。
ねぇ、海の中の世界は完璧 でしょう?
完璧で矛盾なんかなくて、生命をはぐくむ大きな力やそれを包み込む優しさや、時には絶対的な力の差や、それをもよし、と言わせるような説得力が。
そこにはあるんでしょう?
遠く彼方で太陽さえも飲み込んでしまうその一本の線を見つめながら、私はただ 涙を流す。
END
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