words(BOOK)

□Only
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あなたがそこに居てくれれば、それだけで自分が少しはましな人間になれているような気がするのです。あなたがそこにいないときの私はまるで抜け殻のようで、ただいれものである自分のからだ(生物学的に言う、ただの肉体としての身体)を遠くから眺めているような気持ちになってしまいます。お世辞にもやはりそれはあまりいい気分と言えるようなものではありません。だからあなたにここに居て欲しいとそう思うのです。空っぽになった私の身体が誰かに傷付けられてしまうことがないように。


「僕は僕自身とだってうまく付き合えてなんかいないよ」

あなたは苦く笑って言いました。

「買い被らないで欲しいんだ、僕は別に神様なんかじゃない」

私は首を横に振りました。

「あなたがそれを否定したって変わらない。ただ私にとってのあなたはそういう存在なの。代わりなんかどこにもないの。あなたはあなたしかいない」

「僕のような人間は吐いて捨てるほどいるよ」

「違う、違うのよ。世間一般なんてこの際何も関係なんてないの。私が言っているのは私とあなたの間だけのこと。私にとってのあなたはあなたしかいない。誰だってあなたのように私を強くしてくれるわけじゃない」

「残念だけど、僕には君を強くしているなんてそんな自覚はないんだ」

「そう、ね。うん。それはそうかもしれない。あなたは無意識にそういう何かを私に発しているのかもしれないしもしかしたら私があなたの何かをそういう風に受け取っているだけかもしれない。相互理解の上で成り立っているとは言えないかもしれない。それでも、あなたは私にとって世界でたったひとり、唯一無二のひとなのよ」

「僕は僕のままで、ここに居ればいい?」

「そうすることがあなたにとって窮屈でなければ」

長い沈黙のあと、私の悲痛な叫びをとりあえず全て内側に取り込んだあなたが顔を上げて言いました。



「・・・少し考えさせてくれるかな」



私は首を横に、

振りたかったのです。


ですが、こくりと小さく頷きました。

これ以上あなたに訴えたところで事態は何一つ進展しないということを分かっていたからです。あなたは私のおでこに唇を当てて、随分と長い時間唇を当てたままで。


私の意識はその場所に集中していきました。そこにあるのは柔らかく、生きた体温です。小さく窄めたその動きさえも感じ取ることが出来ます。あなたはその唇でさえ、何か確かなものを私に植え付けてしまいます。そんな小さな動作で、とても大きなものを私に与えてしまうのです。

私はあなたのその無意識さを偉大だと感じます。そして同時に憎みもするのです。そんなものを与えておいて、どうして考える必要があるの、と。


私をあっという間にその手の中に取り込んだあなたが今になって迷うなんて、そんなの理不尽で不公平なことじゃない。どうして本能で、その細胞で感じ取ってくれないの、と。





私は私自身の醜さにぞっとしてしまいます。


『理解して欲しい、受け入れて欲しい、私を認めて欲しい』


幼い頃両親に求めた感情をそのまま彼にぶつけてしまう子供じみた我侭さを恥じていながらそれを止めることのできない自分には病的な何かが巣食っていると全身で感じます。


その毒をあなたに中和してもらおうともがく私は醜い鬼のような顔をしていることでしょう。





それでも、



あなたがそこに居てくれれば、それだけで自分が少しはましな人間になれているような気がするのです



私を拾い上げてくれるのはただひとり、あなたしかいないのです










END
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